第22章 初めてのお買い物
「空良、その小物、如何した?」
朝、支度を終えた私の髪留めに信長様が気付いた。
「貴様にそんなものを贈った覚えはないが、いやに手の込んだ作りだ。どこで手に入れた」
私に近づき信長様は髪留めに触れる。
「あ、これは.....」
自分で作った物だけど、言うのが少し恥ずかしくて言葉に詰まってしまう。
「もしや貴様、他の男からの贈り物を身につけておるわけではあるまいな?」
「は?」
何でそうなるの?
「ずっとお城にいて、誰がくださるんですか?」
「分からん、だが貴様は油断ならんからな」
疑いの目で見ながら信長様は私の腰を引き寄せる。
「もうっ!これは私が作ったんです」
「何っ?」
このままだと朝餉に行く前にお仕置きをされそうで.........
「だからこれは、信長様から頂いた反物の余り布を使って作った物です。誰からも頂いてはおりません」
私は信長様の胸を少し押しながら、真実を話した。
「...そうか、なら良い。良く出来ておるし似合ってる」
信長様の機嫌は途端に戻り、私の頭に軽く口づける。
「もう、すぐ疑う」
「そう口を尖らすな、しかし貴様にこんな特技があったとはな。だがいつ作った?貴様が針を持つ姿などあまり見たことなどないが......」
腰に回された手はまだ緩まない。
「これは、いつも信長様が天主にお帰りになる前の空き時間で作ってるんです」
一緒にここで夕餉を食べた後も、軍議や書状の確認に忙しい信長様を待つ時間を少しでも有意義なものにしたくて、最近始めた私の趣味。越前にいた頃はこれを売って家計の足しにしていたけど、ここでは女中仲間に日頃のお礼も兼ねて贈っている。
「そうか。折角なら色々と作ってみるが良い。欲しい材料などあれば商人を呼んでやるゆえ遠慮なく申せ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ふっ、分かりやすく機嫌の良い顔になったな」
私の頬に手を当て笑う顔に見惚れて顔が熱くなる。
「だって、褒めてもらえると思ってなかったので嬉しくて.......。これでもっと、信長様を待つ時間が楽しいものになります」
「そうか、寂しい思いが和らぐのならいい」
「はい」
嬉しくて抱き付けば、当たり前に抱きしめ返してくれ、口づけてくれる。