第19章 恋仲〜逢瀬編〜
朝が来た。
本能寺より連れて来られ、信長様の腕の中で当たり前に目覚める様になった時から、私は全ての朝にドキドキする様になった。
そして今朝、信長様の腕の中で目覚めたわけじゃないのに、これから信長様との逢瀬だと思うだけで、ドキドキしてソワソワして落ち着かない。
「空良様、朝餉をお持ちしました」
「は、はいっ」
朝餉と聞いて、お腹は途端にグゥーっと音を立てる。
ドキドキはするけど、前向きな気持ちだと、食欲はわいてお腹も空く。気持ちって、本当に大切だ。
「いただきます」
一人の朝餉だけど、昨日とは違う。
逢瀬に胸を躍らせながら手を合わせて、朝餉をきれいに平らげた。
腹ごしらえは万全。
あとは、信長様を待たせない様に、でも綺麗だと思ってもらえる様に支度をしなくては。
「何度見ても綺麗」
昨夜信長様から届けられた着物は、淡い色合いを基調に小花の刺繍が着物全体に贅沢に施されていて、派手ではないけど気品のある仕上がりになっている。
袖に手を通すと、着心地も軽やかでとても良い。
いつも様々な贈り物をしてくれる信長様に、こんなにも物はいらないと言った事がある。
『私は、こんなに沢山のお着物は必要ありません。お気持ちだけで十分です』
『貴様が気にする必要はない。俺の贈った着物を着た貴様からその着物を脱がして乱すのもまた一興。俺が楽しいからしている』
『あっ、......の、信長様っ........』
そう言えば、あの後本当に脱がされて色々と.........
「わぁっ!ダメダメ、信長様をお待たせしちゃ!」
朝から淫らな思い出に翻弄されそうになる所だった。
「でも.......」
今夜もきっと、この着物を脱がされる........
「......って、私何期待してるんだろう.....」
もう、手順なんてそんな事、とっくに私自身が守れない程に、信長様に触れたくて仕方がない。
「ああ、急がなきゃ」
こんな風に好きな人との逢瀬を思いながら支度をする事ができたのも信長様のおかげだ。
忙しい中で作ってくれた今日という時間を大切に過ごそう。
そして、私達らしい恋仲をこれからも続けていきたい。
色々と妄想を膨らませている間にも時間は過ぎて行き、言われた通りに紅はささずに慌てて支度をして城門へと向かった。