第3章 侍女の仕事
天守に閉じ込められた私は、一人何とか逃げ出す方法を考える。
「侍女なんて、冗談じゃない」
夕刻になれば信長は戻って来てしまう。それまでに何とか逃げないと、また昨夜の様になってしまうかもしれない。
......とは言え、部屋の外には見張りの人がいて、そこから逃げ出すことは無理そう。
残るは、屋根を伝って逃げるしかないけど....
「こんな高い所からなんて、忍びでも無理なんじゃ...」
部屋の中に、何か逃げることに使えるような物はないかと探しても、無駄に辺な南蛮渡来の物ばかりが溢れていて何もない。
そうこうしているうちに時間は流れ.........
................結局、縄の代わりになる物を見つけて、屋根を伝って降りるしかないとなった。
「縄になりそうな物は.......... 」
腰紐や帯締めなどを結び合わせても長さは到底足りない。それ以外に縄の代わりとなる物を探すと....
「あ、あれだ」
信長が、私にと女中に用意させた着物と襦袢。
あんな男が用意した着物など着用したく無かったから着なかったけど、あれなら縄の代わりになるかもしれない。
桐箱の中には見事な刺繍の施された着物と、その下には襦袢が入っている。
本当は、着物の方が頑丈な縄が作れそうだったけど、自分が姫と呼ばれていた頃でさえ着た事のない豪華な出来栄えの着物を裂くのはさすがに忍びなく、襦袢を裂いて縄を作る事にした。
・・・・・・・・・・・
「............よし、出来た」
何とも心許無い縄.....紐かな?が完成し、とりあえず廻縁に出て垂らしてみた。
「.............だめだ......全然長さが足りない」
安土城は立派だとは聞いていたけど、私の予想よりもはるかに大きくて高い。
襦袢を切り裂いて作った縄ならぬ紐は、無残にも風に揺られひらひらと舞っている。
「諦めの悪い奴だ、まだ逃げるつもりか?」
気付けば、いつの間にか背後には信長が........
「の、信長..............様」
うぅーー様づけなんて悔しい〜!!
「ほぅ、少しは侍女らしくなったか?」
私の態度をにやりと笑うと、襦袢で作った紐を手摺りから解き取った。