第11章 漂う(沖田夢)
水族館に到着してからも、沖田は手を離さず、視線は合わせないのに、繋いだ手は遼がどんなに動いても離れる事はなく、それどころかますます強く握られる。
「あの、沖田さん?」
「何でィ?」
「ずっと手を握ってるの、気になりませんか?」
「別に」
ふいと顔を背けられ、遼は困惑しつつもその手を握り返した。
自分より大きくてごつごつしたその手は、よく見るとタコが潰れた痕や傷がわかる。
白くて、苦労を知らない自分の手とは全く違う。
「綺麗……」
思わず口に出していて、慌てて空いている方の手で口を塞いだが、振り向いた沖田と目が合い、慌てて近くの水槽を見上げた。
視線の先では無数のクラゲが浮遊していて、幻想的な世界を演出している。
「クラゲなんかが好きなのか?」
「えっと、あの……沖田さんみたいだなって」
「は?」
「つかみ所が無いって言うか、よくわからないって言うか……でも、キラキラしていて綺麗で、ずっと見ていたいなって──」
そこまで答えて、遼は恥ずかしくなって空いている方の手で顔を覆った。
本心には違いないが、好きだと伝えるよりもずっと熱烈な愛の告白のようだと思ってしまう。
何か言葉を続けなければと思えば思うほど緊張して、頭が真っ白になり、沈黙が続いた。
「俺がクラゲなら、遼もクラゲだな」
「え?」
「何考えてるのかわからねぇ」
「沖田さんよりは、分かり易いと思いますけど」
「いや──」
沖田は遼を引き寄せて腕の中に収めると、小さく溜息をついて囁く。
「俺ばっかりが好きになってる気がする」
その言葉に驚いて遼が顔をあげると、隙をついたように口吻された。
「やっぱり、何考えてるのかわかんねぇな」
そう言って笑った沖田の表情は、どこか寂しげで、遼はにこりと笑って沖田の額をぺしりと叩く。
「いてぇな」
「弱気なんて、沖田さんらしくないですよ。沖田さんはもっとこう……偉そうにしてないと」
明らかにムッとした沖田に、遼は「そうそう、そんな感じです」と頷いた。
「沖田さん。私、沖田さんとその……するのが嫌だとかはないんです。でも、こうやって、手を繋いで歩いたり、同じ物を見て感想を言ったり、そんな時間を過ごすのはもっと好きなんです」