第11章 漂う(沖田夢)
そう告げて、遼も漸く理解が出来た。
この恋心は本物だったのだと。
求められれば素直に嬉しいし、行為に不満があるわけでもない。
どんな形でも、一緒に居たいと思ってしまった。
「私、沖田さんが好きです」
あの頃より想いが募った告白に、沖田はみるみる赤面する。
あまりの珍しい光景に、遼は数度瞬きを繰り返すと、意を決して沖田の手を取った。
「改めて──私と、付き合って下さい」
一世一代の告白に、沖田は遼の手を握り返す。
「改めて、よろしくな。それから、いいかげん俺の事は名前で呼べよ」
ぶっきら棒に答えた沖田に、遼は極上の笑顔で頷くと、ほんの少し躊躇いながら名前を呼んだ。
「総悟さん」
「総悟でいい」
「……総悟」
呼ばれ慣れている名前の筈なのに、遼の口からでたそれは甘やかに沖田の耳を擽る。
どれ程自分は単純なのかと思いながら、沖田は遼を抱き寄せた。
「ここからもう一度始めよう」
「はい」
頷いた遼を離すと、沖田は遼の手を優しく握る。
「ゆっくり見て回るか」
穏やかなその笑顔に、遼はほんの少し握った手に力を込めて微笑んだ。
ひどく遠回りをしてしまった恋が、やっと始まった。
「神楽ちゃんに感謝しないとですね」
「死んでもイヤでィ」
「じゃあ、私が沖田さんの分も神楽ちゃんにありがとうって伝えておきます」
そう言った遼に、沖田はますます顔を顰める。
沖田の心中を察した遼は、その子どもっぽさに思わず笑ってしまう。
「何でィ」
「総悟の可愛い所が見られて嬉しいだけです」
「あっそ」
ふい、と拗ねたように顔を背けるその姿さえ愛しい。
言葉を交わさなくても、ただこうして手を繋いで歩いているだけでも幸せで、顔がにやけてしまった。
「あ、見て下さい!アザラシが泳いでますよ!」
「アザラシぃ?」
「可愛い。あっ、コッチ見た」
はしゃぐ遼に辟易しつつ、沖田は近付いてきたアザラシをじっと見る。
「何かコイツ、人のことバカにしたような顔してねぇか?」
「えーっ、可愛いじゃないですか。ほら、沖田さ──総悟の方見てますよ」
そう言われ、沖田はアザラシを見るが、ふいと顔を背けられた。
「やっぱりバカにしてんだろ」