第11章 漂う(沖田夢)
「どうせお前の事だから、ろくに遼とデートなんてした事ないアル」
「んだと?」
「私なんか、遼と買い物に行ったり、遊園地に行ったり、二人でお泊まりもしたもんねー」
べえっと舌を出しておちょくる神楽に、沖田はイライラと歯噛みする。
「何が言いたい?」
「私の友だちを悲しませる奴は、誰であろうと許さないアル。だから、遼にこれあげるネ」
「え?」
「福引きで当てたアル。お米のお礼ネ」
遼の手の上に置かれたのは、大江戸水族館のペアチケット。
「誰を誘うかは遼が決めるアル。私はいつでも遼が笑ってくれてたらそれでいいネ」
「神楽ちゃん……」
「私はもう行くアル。オイおまわり。遼に優しく出来ないなら、お前から離れるネ。バカガキはさっさと卒業しろヨ」
そう言って飄々と去って行く神楽に、沖田は眉を顰めた。
神楽に言われずとも、わかっている。
けれど、遼には知られたくなかったのだ。
幼くて、弱くて、情けない自分を。
「沖田さん!」
名前を呼ばれハッと顔をあげると、自分を真っ直ぐに見つめてくる遼と目が合った。
「今日は、ここに行きたいです」
そう言って、神楽から渡されたチケットが沖田の手に載せられる。
沖田を見つめる遼は、緊張しているのか僅かに震えていて、目には薄らと涙が浮かんでいた。
ふと、記憶の中のそれと重なる。
(あの時みてぇだな)
告白された時、同じように遼は泣き出しそうな顔をしていた。
その表情を見た瞬間、沖田は何か大切な物を手に入れたような気がしたのを覚えている。
沖田は手に載せられたそれをポケットにしまうと、そっと遼の頭を撫でた。
「じゃあ行くか。水族館」
「っ、はい!」
沖田の答えに遼の表情がぱあっと輝き、纏う空気さえ明るいものに変わる。
その雰囲気に、沖田は自分でもどうしていいのかわからず、遼から目を逸らした。
頬が熱く、心臓が脈打つ。
(これじゃあまるで──)
浮かんだ思いを掻き消すように頭を振ると、沖田は遼の手を取って歩き出した。
乱暴に引かれる手を見つめながら、遼は湧き上がる思いに口元を綻ばせる。
嬉しくて、擽ったい。