第11章 漂う(沖田夢)
名前を呼ばれて振り返ると、訝しげな表情の土方が立っていた。
「土方さん……」
「うおっ、何で涙目なんだよ!俺が何かしたみてぇじゃねぇか!」
「すみません、あの、沖田さん見ませんでしたか?」
「総悟ォ?
見てねぇが、どうかしたのか?」
「実は、見失ってしまって……」
「迷子かお前は」
堪らず吹き出した土方は、ふくれる遼の頭をいささか乱暴に撫でる。
「もうっ、子ども扱いしないで下さいよ」
「総悟より年下なら、十分ガキだろ」
「そんな事──っ!」
突然土方の首筋に刀が添えられ、遼は息を飲んだ。
当の土方は、何でも無い様子で煙草の煙を吐く。
「土方テメェ、何してやがる」
「総悟、お前にも人並みに嫉妬なんて感情が有ったんだな」
「はァ?」
「神武が完全に引いてるぞ。さっさと刀をしまえ」
目を見開いたまま硬直している遼の姿に、沖田は舌打ちをして刀を収めた。
「見つかって良かったな」
土方は遼の頭をぽんっと叩くと、「じゃあな」と行ってしまう。
残された遼は、恐る恐る沖田の表情を窺った。
怒っているのかと思ったが、いつもに増した無表情で何を考えているかわからない。
「沖田、さん……?」
「誰が主人か、もう一度教え込む必要が有りそうだな」
危険を感じた遼は、じりじりと後退った。
逃げようかと構えていると、遠くから名前を呼ばれて遼はそちらを振り返る。
「神楽ちゃん?」
「遼、久しぶりアル。この間貰ったお米、めちゃくちゃ美味しかったネ!
また遼の所に遊びに行って良いアルか?」
「う、うん。大丈夫だよ」
沖田の姿が視界に入っていないかのように、神楽は遼の手を取り会話に花を咲かせた。
「おい、クソチャイナ。遼から手ェ離せ」
「……お前、自分の顔、一度鏡で見た方がいいアル」
神楽は遼を抱き寄せて、沖田から隠すようにすると、黙って沖田を睨みつける。
「何のマネだ?」
「友情を育んでるだけアル。今のお前に遼を渡したら、何するかわからないからな。いくら付き合ってたって、やっていい事と悪いことくらいあるネ」
「……」
思わず目を逸らした沖田に、神楽はやれやれと溜息をつく。