第6章 絆される・続(神威裏夢)
納得出来たか、と尋ねる阿伏兎に神威は少し悩んだような顔をした後、遼の前に立ち両手で遼の頬を包み込む。
「じゃあさ、俺には何を預けてくれるの?」
「は?」
「阿伏兎に命と忠誠なら、残りは団長の俺が貰っていいよね?」
答える間もなく、神威は遼に口吻た。
触れるだけの口吻に遼と阿伏兎が驚いていると、神威は当たり前のように遼の首に手をかける。
「命なんか、俺はいらない。欲しいのは、遼の作る新しい命だよ」
どこまでも純粋な神威に、遼は思わず吹き出した。
「ふっ、はは、そうですね。貴方になら、命と忠誠以外を預けてもいいかもしれません」
「そう。じゃあ早速、相手してくれる?」
「嫌です。今日はもう、休むつもりなので」
「つれないなぁ」
遼から手を離し、神威は案外あっさりと引き下がる。
「俺は部屋に戻るから、休んだら訪ねておいでよ」
じゃあね、と手を振りながら出て行った神威に苦笑しつつ、遼は阿伏兎に謝罪した。
「余計な事を言ってしまい、申し訳ありません」
「いや。でも良かったのか?」
「いずれわかる事です。それに、いつまでも過去に捕らわれるわけにはいきませんから」
「選んだんだな」
どこか満足そうな阿伏兎に、遼は「はい」と頷くと部屋を後にする。
自室に戻って艦周辺に異常が無いことを確認すると、シャワーを浴びてベッドに横になった。
「久しぶりに、よく眠れそう」
目を閉じると、心地よい睡魔に襲われて、遼はそのまま夢の世界に誘われた。
本当に久しぶりにぐっすり眠った遼は、目が覚めて一番にモニターを確認して驚く。
「嘘、十時間も寝てたの」
余程疲れていたのかと、身支度をしながらこれまでの状況を確認し、何事も起きていないことに胸を撫で下ろした。
操縦室に向かおうとして、ふと神威とのやり取りを思い出す。
「……先に状況を確認してからにしよう」
こればかりは性分だ。
仕事を優先してしまう。
あれやこれを思い悩みつつ操縦室に行くと、思い掛けない人物が、思い掛けない事をしていた。
「随分遅いから、仕事しちゃったよ」
「明日は雨が降るかもしれませんね」
宇宙ではそんな事はあり得ないが、思わずそう返してしまう。