第4章 執着(土方裏夢)
「なあ遼、さっき総悟に何を言われてたんだ?」
「普通の挨拶ですよ」
「挨拶するのに一々手を握るのか?」
「沖田さんとは、十四郎さんより長い付き合いですから」
土方の眉がピクリと上がる。
「それに、沖田さんのおかげで十四郎さんと会えて、夫婦になれたんですよ」
「それは、そうだが……」
言い淀む土方に、遼は少しだけ微笑んで水を飲む。
そこに、お待たせしましたと、店員が料理を運んできた。
「温かい内に頂きましょう」
何か言いたげな土方を遮るように、食事を始める。
諦めた土方も、たっぷりのマヨネーズをトッピングして食べようとした瞬間、聞き覚えのある声が遮った。
「相変わらず、犬の餌みてぇなの食ってるな」
現れた人物に、土方の表情が険しくなる。
「何の用だ」
「お前に用なんてねぇよ。久しぶりだな、遼」
「銀さん……」
当たり前のように遼の隣に腰掛けた銀時に、土方は思わず立ち上がり、銀時の胸ぐらを掴んだ。
「テメェ!」
「おいおい。お巡りさんがそんな事していいのか?」
ニヤニヤと笑う銀時を、土方は黙って睨みつけて手を離す。
「遼、元気だったか?」
「……うん」
「そっか。でもちょっと、痩せたよな」
「そうかな……っ!」
するりと太股を撫でられ、体を震わせた。
触れられたと同時に記憶が蘇り、遼は銀時から目を逸らす。
「オイ、いい加減に……!」
「旦那がお怒りだから、今日はこの辺でな。じゃあまたな」
「テメェ!」
引っ掻き回すだけ引っ掻き回して去って行った銀時に、土方は苛立たしげに机を叩く。
「クソッ!」
「と、十四郎さん」
「あ、悪ィ……さっさと食ってでるか」
「そうですね」
頷いた遼は、先ほど銀時に触れられた箇所を見て僅かに顔を顰めた。
その部分だけが、まるで毒を塗られたかのように重く痛みを伴っている。
きっとこの毒は、瞬く間に全身を侵していき、遼と土方を苦しめるのだ。
何とか食事を食べ進めるが、まるで砂を噛んでいるように味がしない。
それでも何とか食べきり、土方に手を引かれて店を後にした。
暫く無言で歩いていると、旅籠屋の前で足を止める。
「泊まって帰るか」
「……はい」
頬を染めて頷く遼に、土方の表情も和らぐ。