第4章 執着(土方裏夢)
「遼じゃねぇですかィ」
「お久しぶりです、沖田さん」
知った顔に声を掛けられ、足を止めて微笑む。
その姿に、沖田は違和感を覚えて思わず遼の手を取った。
「アンタ、大丈夫ですかィ」
首を傾げる遼に、沖田の表情が曇る。
以前から親交のあった沖田には、今の遼の姿はあまりにも違和感があった。
沖田の記憶の中の遼は、溌剌としていてよく笑う、丸い顔が印象的な少女だった。
けれど今は、どこか思い詰めた雰囲気で、痩せたように思う。
「本当に、大丈夫か?」
詰め寄られ、驚きつつも「大丈夫ですよ」と笑う。
見慣れた笑顔にほっとした沖田は、掴んだままだった手を離し「何か有ったら連絡下せぇ」と念を押した。
「沖田さんは心配性ですね。でも、ありがとうございます」
「今日は、アンタ一人なのか?」
「んなわけねぇだろ」
遮るような声音に、沖田はいつもの調子で舌打ちをする。
「土方も一緒かよ」
「たりめぇだ。つーか、コイツも土方だよ」
「神武は俺の中でいつまでも神武でさぁ」
「うるせぇ。休みの日までお前の相手してられっか。行くぞ遼」
強引に遼の腕を引いていく土方に、沖田はやれやれと溜息をついて二人を見送った。
「ったく、折角の休みだってぇのに」
イライラと呟く土方に、遼は黙ってついて歩く。
痛いのは、乱暴に引かれた腕なのか。
それとも──
悪い考えが巡り、ドツボにはまりそうになっていると、立ち止まった土方に「飯でも食うか」と尋ねられ、慌てて頷く。
暫く歩くと、馴染みの食事処に連れて行かれ、二人は喫煙席に座る。
早速煙草に火をつける土方に、遼は「まだ怒ってるんですよ」と訴えた。
「あ?」
「お金、払わせてもらえなかったこと」
「俺にも矜持があるんだよ。それに、お前が稼いだ金ならお前の為に遣えよ」
「十四郎さんとお揃いでお祭りに行くのは、私の為ですよ」
「俺が嬉しいんだから、俺の為だろ」
フーッと煙を吐いた土方に、遼は真っ赤になって俯く。
素面で言われると、恥ずかしい。
「浴衣が出来たら、祭りでも何でも行ってやるよ。だから、金の話はしまいだ」
「わかりました」
渋々遼が頷くと、店員が注文を取りにきて必然的に話が変わった。