第4章 執着(土方裏夢)
「よくお似合いですよ。今からなら、夏の祭にも間に合います」
「いや、俺はいい。妻のだけ仕立ててくれ」
そう言って試着室に戻ろうとする土方を遼は不満げに引き留める。
「私は、お揃いがいいです」
「別にこの色じゃ……はァ、わかったよ。悪ィが、俺の分も仕立ててくれるか」
惚れた弱味か、土方は遼のおねだりに滅法弱い。
だからこそ嫌だったが、いっそ白を身に付け遼と歩く姿を見せれば、少しは自分の気持ちも晴れるかもしれないと、言い聞かせる。
(遼の中で、白が俺になればいい)
どす黒い感情が、胸の中で渦巻く。
「十四郎さん?」
心配そうに見上げてくる遼に心が絆される。ざわめく心を押さえ付け、いささかぶっきらぼうに「着替えてくる」と答えて試着室に入り、いつもの着物に袖を通した。
ふと見た姿見に映る自分に顔を顰める。
「ああ、ひでぇ顔だな。狡くて、醜くて……情けない」
姿見の中の自分に気が付かれたら……。
この想いがバレたらきっと、捨てられる。
「ヤニ切れだな」
苛立つ気持ちに理由をつけて試着室を出た土方が、採寸を終えて会計を済ませようとすると、遼が「ダメです」と、慌てて走り寄る。
「うおっ、何だよ、今更やめるのか?」
「違います。これは、私が払いたいんです」
「はあっ?」
「だって、私が欲しいって我が儘言ったのに、十四郎さんにお金を出してもらうわけにいきません。安心して下さい。結婚前に貯めたお金がありますから」
「却下だ」
印籠宜しくカードを出した遼にデコピンをすると、土方は自分のカードを店主に渡した。
「一括で」
「ああぁ~、ダメですってば!こっち、こっちでお願いします!」
「え、えぇっと……」
「いいからさっさとこっちで会計しろ」
土方に睨まれ、店主はカードを受け取って素早く会計を済ませる。
その間も遼は「私が払いたかったのに~」と文句を言い、「払わせられるわけねぇだろ」と土方に一蹴されていた。
会計を終了させ、店外に出ると、土方は遼を引き寄せ手を握る。
まだ怒っているのか、遼は握られた手を振り払い、少し先を歩いていく。
「あ、オイ!」
土方が捕まえようとした所で、遼は誰かに呼び止められて立ち止まった。