第4章 執着(土方裏夢)
呉服屋に着いた二人は、依然手を繫いだまま、店内を物色していた。
熱心に遼の浴衣を探す土方をよそに、当の本人はぼんやり店内を眺める。
「あ」
ふと目に止まったのは、白地に青い花模様の浴衣。
模様こそ違うが、記憶の中の彼がいつも纏っている着物に雰囲気が似ていた。
「十四郎さん、私これがいいです」
「ん?
…駄目だ」
「どうして?」
険しい表情になった土方に、遼は無邪気に尋ねる。
まるで、何も気が付いていないように。
「俺の趣味じゃねぇ」
「十四郎さんも、似合うと思いますよ。白」
的外れな答えを返す遼に、土方は一瞬眉間の皺を深くする。
(“白”なんて、アイツの色じゃねぇか)
白の異名に白い着物。極めつけの白髪に見える銀髪。
「他の色にしてくれ」
「試着だけでも、駄目でしょうか?」
ねだられて、土方は大きく息を吐き「試着だけだぞ」と、渋々承諾する。
「十四郎さん、折角ならお揃いにしてみませんか」
「はあ?!」
「白い浴衣、持っていないでしょう?
合わせるだけでもどうですか」
にこりと笑って誘う遼に、土方はますます厳しい表情になるが、遼は店主を捕まえて土方に合わせる浴衣を相談し始めた。
「すみません。男性用で、白地に青い模様が入った物はありますか?」
「成る程、奥様と旦那様で揃いに見えるような様子の物ですね。でしたら、こちらはいかがですか」
店主が出してきたのは、袖や裾に青い格子の入ったもので、一目見て気に入った遼は「これがいいです」と、目を輝かせる。
はしゃぐ遼に、土方は「今日だけだぞ」と、諦めて店主から浴衣を受け取り、それぞれ試着室に入る。
姿見の前に立った遼は、鏡の自分に手を伸ばす。
「酷い顔。いつか、報いを受けるのに」
騙して、隠して、裏切って、手に入れた今の場所は、殆ど崖っぷちだ。
いつかばれる。ばれたらきっと、捨てられる。
白い浴衣に袖を通し、改めて姿見を見ると、まるで4年前の自分がそこに居るかのようだ。
けれど、隣に居るのは彼ではない。
「お客様、いかがですか」
声を掛けられ試着室を出ると、既に試着を終えた土方が、不貞腐れた顔で待っていた。
土方に駆け寄った遼は、「すごい!よく似合ってます!」と、興奮した様子で喜ぶ。