第30章 嫉妬の形は人それぞれ
【沖田総悟】
入隊したばかりの年若の男と談笑する遼の姿に、沖田はふつふつと苛立ちを募らせていた。
遼はこの度新人教育を任され、忙しそうに毎日を過ごしている。これまでは事あるごとに土方、沖田、山崎といった面々と仕事をこなしていたのだが、この数日は殆ど言葉を交わすこともなかった。
その事が沖田にとっては何とも腹立たしく、土方や部下への態度も一層刺々しくなっている。
(つーかあの新人、何か勘違いしてんじゃねぇのか)
やたらと遼と距離が近く、鼻の下を伸ばして(いるように、沖田には見える)顔で、指導を受けているようには見えなかった。
不意に男の手が遼の肩に触れた瞬間、沖田は光の速さで二人の間に割って入る。
「うわっ、どうしたんですか沖田隊長」
「虫がついてたんでぃ」
「虫?」
首を傾げる遼をよそに、沖田は黙って男を睨みつけた。
睨まれた男は、相手が沖田という事もあり、引きつった表情で数歩後ずさる。
その様子に沖田は不敵に笑みを浮かべると、右手を軽く刀の柄に添える。
「随分楽しそうに指導されてるじゃねぇか。剣術は俺が鍛えてやるから覚悟しなァ」
「ひっ!!」
「沖田隊長、あんまり新人いびりしないで下さいよ。ようやく入隊してくれた後輩なんですから」
「俺のしごきで辞める程度じゃあ、現場に出ても知れてらぁ。それより腹減ったから、飯食いにいくぜぃ」
「はいはい、お供させていただきます。ええっと、良かったらあなたも――」
遼の誘いに新人隊士は慌ててぶんぶんと首を横に振った。
「そっか。じゃあまた、わからないことが有れば何でも聞いてね」
「は、はい」
頷いた新人隊士は二人の姿が見えなくなると、漸く大きなため息をつく。すっかり油断した所でポンと肩を叩かれて、慌てて振り返ると、監察の山崎が憐みの目を向けて立っていた。
「え、あの……」
「悪い事は言わないよ。遼ちゃんに懸想するのだけはやめた方が良い。命が惜しければね」
「い、命ですか?」
「そう。彼女は沖田隊長の想い人だから」
にこりと笑って釘を刺す山崎に、新人隊士は「心得ました」と力なく項垂れる。
その様子に山崎は心の中でひっそりと「結局八つ当たりされるのは副長で、その八つ当たりは俺に返ってくるからなぁ」と独り言ちた。
[おわり]