第4章 執着(土方裏夢)
体を拭き、浴衣を着て部屋に戻ると、外出着に着替えた土方がドライヤー片手に待っている。
「乾かしてやる」
「お願いします」
鏡台の前に座ると、土方は慣れた手つきで遼の髪を乾かし始めた。
「伸びたな。どうせなら、短くするか」
「その方がいいですか?」
「ん?」
何故か不安げに見上げてきた遼に、土方は少したじろぐ。
「伸ばしてる理由でもあるのか?」
「あ……いえ、」
口篭もる遼に、土方はやや苛ついた様子で「言えよ」と問い詰める。
遼は「子どもっぽくなるから」と、少し困った顔で笑った。
「何だ、そんな理由か」
「ごめんなさい。普段でも、十四郎さんといると兄妹に間違えられちゃうから、これ以上子どもっぽくなりたくないなって」
「そうだな」
納得したのか口元を緩ませた土方に胸を撫で下ろしながら、遼は耳の奥で聞こえる彼の声をかき消すように目を閉じた。
『やっぱりお前は長い髪が似合う。遼の髪触るのすっげー好き』
ゆっくりと目を開けると、鏡越しに土方と目が合い、遼は安心したように微笑む。
(誰にも渡さない)
張り裂けそうな程に胸が痛み、渋面になるのを堪えながら、遼は土方と会話を続けた。
「よし、乾いたから着替えだな」
土方は箪笥から自分の着物と同じ色味の着物を出すと、帯や帯締めまで甲斐甲斐しく用意する。
「俺ァ煙草吸ってるから、ゆっくり用意してこい」
「はい」
土方が出て行った部屋で、遼は浅く息を吐いた。
夫婦となってから、出掛ける際は土方が着物を見繕うようになり、まるで誰かに見せつけるかのようにそろいの物を身につけている。
「呆けている場合ではないわ。急がないと」
慌ただしく着物を着て、軽く化粧をすると、姿見の前で全身を確認して部屋を出た。
煙草を燻らせていた土方は、遼の姿に満足そうに頷くと、捉まえるように手を握る。
指を絡めた握り方に、遼は恥じらうが、土方は一層強く握り締めた。
「夫婦なんだから、別にいいだろ」
耳まで赤くした遼に、土方はたまらず口吻る。
「行くか」
恥じらう遼に、土方は妖しく笑う。
そうすることで、周囲に牽制しているつもりだった。
(存分に嫉妬に狂いやがれ)