第30章 嫉妬の形は人それぞれ
心の中でいちゃもんをつけながらイライラと睨みつけていると、土方の様子に気付いた道行く人々が恐々と道を開ける。
ただでさえ目つきが悪いというのに、隊服を着ているという事も相まって、道端に仁王立ちしている土方の姿は善良な市民を怯えさせるには十分だった。
その異様な雰囲気に、遼と話していた男が漸く土方の存在に気が付いてびくりと震える。
その様子に、遼は「どうしました?」と首を傾げた。
「いや、あの……何か、すごい睨まれて……」
「あ」
男に促されて振り返った遼は、土方の姿を確認すると小走りに駆け寄って敬礼する。
「副長、見廻中ですか?」
「っ、あ、いや……これから屯所に戻る所だ」
「そうだったんですね。では、お気をつけて――副長?」
「えっ、……」
無意識に離れていく遼の手首を掴んでいた土方は、言葉に詰まって立ち尽くした。
何か反応しなければと思うほど、言葉が出てこず、掴んだ手に力がこもる。
掴まれた遼もどうしたものかと悩んでいると、先ほどまで遼と話していた男が遠慮がちに声を掛けた。
「遼さん、こちらの方は?」
「あ、すみません放っておいて。こちらは私の上司で、真選組副長の土方十四郎さんです」
「ああ、上司ですか」
些か安堵した様子の男を鋭く睨みつけた土方は、「何だテメェは?」と、喧嘩腰で尋ねる。
「え、あ、俺は――」
「道に迷っていたところを、案内していたんです。私と同い年で、田舎から出てきたばかりだそうですよ」
「ふうん、随分親しくなってるじゃねぇか」
妙に刺のある言い方に、遼は首を傾げながら「職業病だから仕方ないですよ」と答えた。
「職業病?」
「だって、最近平和過ぎてお年寄りの道案内とか、迷子の捜索ばっかりだったんですよ。愛想よく対応しないと、色々書き込まれたりとかしちゃいますし、ただでさえ真選組はガラが悪いとか、チンピラ警察24時とか言われてるんですからね」
「男所帯の警察組織なんだから、愛想なんざ必要ねぇだろ」
「予算減らされちゃいますよ」
呆れたと溜息をついた遼は、道案内をしている男を振り仰ぎ、取り繕うような笑顔を向ける。
「怖がらせてしまってすみません」
「いや、その、きみの上司なら悪い人ではないだろうし…大丈夫だよ」