第30章 嫉妬の形は人それぞれ
腕を引かれて辿り着いたのは人気のない路地裏で、漸く我に返った遼は慌てて銀時の表情を窺った。
「銀ちゃ――」
「俺、間違った事言ったか?」
壁を背に詰め寄られ、遼は何と答えていいのかわからず困った表情のまま銀時を見上げる。
銀時の表情は、酷く怒っているようにも、笑っているようにも見えた。
何か答えなければと口を開くが、からからに乾いた喉から出たのは、吐息のように掠れた声だけで、銀時の耳には遠く届かない。
「あ……の、――っ」
「ビビってる顔、めちゃくちゃ可愛い。つーか、誘ってる?」
「ん、っ!?」
突然唇を塞がれて、遼は抵抗できないままに銀時を受け入れた。
それを同意と取ったのか、容赦なく差し込まれた舌が口内を犯す。
どうにか離れようと伸ばした手で銀時の胸を軽く押すが、力の差は歴然でピクリとも動かなかった。
(どうしよう……このままだと――)
行為の始まりの時のように意識が朦朧とし始めた瞬間、重なっていた唇が離れ、思わず「え?」と顔を上げる。
「物欲しそうな顔してんな。
何?こんなトコで最後までシて欲しかったのか?」
「あっ――」
羞恥で耳まで赤くした遼は、慌てて銀時から目を逸らした。
「本当、可愛いよな。でも今日は、可愛いだけじゃ許してやれないから」
「許す……?」
「俺を嫉妬させたらどうなるか、体の奥の奥まで教えてやるから――覚悟しとけよ?」
「――ッ!?」
赤く、昏く輝く銀時の視線に射抜かれた遼の心臓が、一つ大きく跳ねる。
僅かな恐怖と……期待。
そして、彼に嫉妬されているのだという充足感が全身を満たしていった。
そんな遼の心情に気付いているのかいないのか、銀時はいつもの表情に戻り、ふっと笑う。
「男の嫉妬は女の三万倍って言うだろ」
「そんなに多いの?」
「どうだかな。まぁ、少なくとも俺は嫉妬深い方だから」
「そっか・・・でも、三万倍は深すぎると思う」
「じゃあ、俺が嫉妬して暴走しないように他の男によそ見なんてしないように」
「しないよ、そんな事」
少し困ったように笑った遼の頭をよしよしと撫でると、手を握り、かぶき町の雑踏へと二人並んで歩き出した。
[おわり]