第30章 嫉妬の形は人それぞれ
【坂田銀時】
(今日は依頼もねぇし、新台入ってるパチ屋にでも行ってみるかなぁ)
銀時がいつものようにかぶき町をぶらぶらと歩いていると、通りの向こうに知った姿が見えた。
「お、遼じゃん。……気付いてないみてぇだし、こっそり後ろから驚かしてやるか」
妙な悪戯心が湧いてきて、勘のいい遼に気付かれぬよう、ゆっくりとその背後に忍び寄る。
(ん?)
近づいてみて、漸く遼が誰かと談笑しているのだという事に気付き、足を止めて会話に耳を傾けた。
遼が話している相手は、銀時の覚えがある顔ではなかったが、その様相や親し気な会話の雰囲気から、二人がかなり近しい間柄なのだと感じ取れる。
(何だアイツ)
銀時の纏っている空気が途端に冷たく厳しい物に変わり、先ほどまで浮かべていた笑みも完全に姿を消した。
腹の奥に渦巻く黒い感情を無理矢理押し止めた銀時は、やや大股で二人に近付くと、平静を装いながら遼の肩をポンと叩く。
「よぉ、こんなトコで何やってんだ?」
「あ、銀ちゃん」
振り返った先にいつもと変わらぬ銀時の笑顔を見つけ、遼も思わず笑顔を浮かべた。
その笑顔に応えるように微笑んだ銀時は、まるで今気づいたかのように、遼が話しをしていた人物へ視線を向ける。
「お、悪ぃな、話中だったのか。遼の知り合いか?」
「うん。仕事で知り合って、色々と良くして下さってる方なの」
「ふうん」
銀時がけん制するようにちらりと男に視線を向けると、それに気づいた男は僅かにたじろいだものの、人好きのする笑顔で遼に「遼さん、こちらの方は?」と尋ねた。
「あ、紹介しますね。かぶき町で万事屋をしている坂田銀時さんです。私の――」
「どーも、遼の”彼氏”の坂田銀時でーす」
ぐいと遼を押しのけて二人の間に割って入った銀時は、不遜な笑みを浮かべて遼の言葉尻を奪う。
「え、あ、遼さ……」
「そう言うわけなんで。どうぞ”ヨロシク”」
全然宜しくする気のない様子の銀時に、二人は呆気に取られてしまい、紡ぐ言葉を忘れてしまった。
「遼、話終わったなら行こうぜ」
「へ、え、あ」
なすが儘、遼は銀時に腕を引かれその場を離れる。