第1章 行方不明の片想い(銀八夢)
「遼先生」
名前を呼ばれて振り返る。
「どうしたの?神楽さん」
私を呼び止めたのは、古典を担当している3Zの神楽さんだった。
留学生の彼女は国語が苦手なようで、時々補習を見ている。
そんなこともあり、かなり懐いてくれている生徒の一人だ。
「銀八先生が呼んでたアル。3Zの教室に来て欲しいって」
「わざわざ有難う。はいこれ」
ポケットに入れていた飴を渡すと、神楽さんはやったー!と、スキップしながら去って行く。
その姿を見送って、私は3Zの教室へ急いだ。
神楽さんを遣いにして呼び出すくらいなのだから、恐らく急ぎだろう。
授業のことか、クラスのことか……この間のテストの採点方法のことか、思い当たるのは幾つかあるが。
「すみません坂田先生、遅くなりました」
3Zの扉を開けると、窓際で煙草を燻らせる坂田先生が、気怠げに振り返った。
「おー。呼び出して悪いな」
「いえ。お急ぎの用事ですか?」
「卒業式の話なんだけどよォ、俺の代わりにあいつらに証書渡してくんない?」
「何を言い出すかと思ったら……」
呆れて溜息をつくと、坂田先生はニヤニヤと笑う。
「で、本当のご用事は?」
「遼ちゃんさァ、来年はどうすんの?」
「来年ですか?」
「そ。銀魂高校に残るのか、別の学校に行くのか。そろそろ決めたんだろ?」
「……都立の採用試験は受かったんです。でも正直、迷ってます」
「何だ、銀さんと離れるのが寂しいのか~?」