第1章 行方不明の片想い(銀八夢)
「うそっ!充電切れちゃった!」
広い上にごった返しているキャンパスの片隅で、私は真っ暗な画面の携帯電話を握り締めて絶望した。
一緒に来ていた友人とはぐれた上、携帯電話は充電切れ。
そしてここは、見ず知らずの土地。
知り合いだっていない。
「ど、どどどどどどどうしよう?!」
パニック状態の私は、無駄と知りつつ携帯電話の電源ボタンを長押ししたり、振ってみたりする。
「ヤバい。普通にヤバい」
端から見れば、とても奇異だったに違いない。
けれどこの時の私は必至で、なり振りなんて構っていられなかった。
悲観的な想像ばかりが頭をよぎり、目頭が熱くなる。
「アンタ、大丈夫か?」
「へ?」
声を掛けられ、目線を上げると白髪頭の男性が困った顔で立っていた。
「迷子ってわけじゃねーよな?」
「迷子です」
問いに殆ど秒で答えると、明らかに男性の口元が引き攣った。
別にこっちだって迷子になりたくてなったわけじゃない。
気が付いたら1人でベビーカステラの屋台を眺めていて(買い損ねたけど)、慌てて携帯電話をだしたら落として蹴って吹っ飛んで、開いてみたら充電切れだった。
あれ?
これやっぱり私が原因?
「つーか、手に持ってるソレでどうにかなるだろ」
「どうにかなるならしてますよ!」
「もしかして、電池切れか?だったらキャンパスの外にコンビニが……」
「連れて行って下さい!」
「いやいや場所は教えるから1人で行けよ」
「これ以上迷子になったらどうするんですか!道行く人に白髪頭の男性のせいで迷子になったって、有ること無いこと言い触らしますよ!」
「いやどんな言いがかりィ?!って言うか、これは銀髪!白髪じゃねーっつーの!!」
「ふざけんな。相手してられっか」と言って去って行こうとする白髪もとい銀髪に、私は思いっきり息を吸い込んで叫ぶ。
「助けて下さーいっ!その銀ぱ、もごもごむぐぅ」
「てっめ、何人聞き悪いこと叫ぼうとしてんだ!!」
猛スピードで戻ってきた銀髪に口を塞がれながらも、私はモゴモゴと訴える。
「わかった!連れて行ってやるから大声だすなよ!!」
口を塞がれたまま頷くと、盛大な溜息とともに解放された。
「ほら、さっさと行くぞ」
気怠げに歩き出した後ろを追いかける。
あれから、八年。
私はまだ、気怠げなあの背中を追いかけている。