第26章 束縛(沖田裏夢)
握った手に力を込めると、不思議そうな顔をして振り返る沖田と目が合い、遼は優しく微笑んだ。
「何でぃ、変な顔して」
「さぁ、何でしょうね?」
「いい加減襲うぜ」
「部屋までくらい、我慢して下さいね」
そう言って寄り添い、ゆっくりとした歩みで部屋に戻る。もどかしいようなその時間さえ、愛しさを募らせていった。
遼はふと、先ほど沖田に声を掛けて玉砕していた女性たちを思い出し、ちらりと沖田の横顔を確認する。
整った容姿の隣を歩くのは、実は今でも躊躇いがあった。比較され、嫉妬され、時には罵声を浴びせられる。
それでも共に居たいと願うのは、沖田の優しさも愛情も知っているからだ。
部屋に戻ると、早速だらける沖田をよそに、遼はお茶を用意する。
「お休みになる前にどうぞ。私、洗面所に居ますね」
「おう」
声を掛けて洗面所で歯を磨いていると、ひょっこりと沖田が顔を出し、遼の隣で同じように歯を磨きだした。
「?」
不思議に思いながらも鏡を見た遼は、並んで歯を磨く自分たちの姿を「まるで普通の恋人同士か夫婦みたいだな」と、感慨深く思う。
実際、恋人同士には違いないのだが、仕事で一緒に居る時間が多いせいか、甘い雰囲気になることが殆どないのが実情だ。
「いつまで磨いてるつもりなんでい」
「へ?」
「とっとと寝るぞ」
一足先に歯磨きを終えた沖田は、遼を置いて部屋に戻ってしまう。遼も慌てて口をゆすいで後を追うと、沖田が早々と布団に入って横になっており、不満げに「寝ちゃうんですか?」と尋ねた。
「寝る以外に布団で何かする事なんかあったか?」
「……いじわる」
拗ねた遼は、沖田の布団に潜り込んでぎゅうっと抱きつく。
「誘うなら、もっと色気のある方法を考えるんだな」
「無理ですよ。私、自信ないですから」
「仕方ねぇな。今日は俺が教えてやらぁ」
抱きついた腕を優しく外されて、遼は静かに沖田を見つめた。
どきどきと、心臓の跳ねる音が耳の奥で響く。
「総悟さん……んっ」
名前を呼んだのが合図になったように、唇が重なった。
二度、三度と優しく押しあてられる感触に、遼はすっかり蕩けてしまう。