第26章 束縛(沖田裏夢)
旅館に戻った二人は、部屋でのんびりとお茶を飲んでいた。
夕食までにはまだ十分な時間があり、旅先という事も手伝って些か手持ち無沙汰になっている。
「暇ですね~」
「アンタは働き過ぎなんでぃ。こんくらいが丁度良いんだよ」
「そんなものですか?」
「そんなもんだよ」
そう言って大欠伸をした沖田に苦笑しつつ、遼は「夕食までお休みになりますか?」と尋ねた。
「んー……いや、風呂にでも入る」
「いいですね。じゃあ、行きましょう……って、何でニヤニヤしてるんですか?」
「風呂ならここにあるぜ」
「温泉に浸からないんですか?」
「この部屋についてんだよ。露天風呂」
沖田が指さす方を覗きに行くと、そこにはテレビや本でしか見たことのないような露天風呂が設けられており、遼は慌てて沖田の傍に戻る。
「なっ、何かすごい豪華なお風呂が有ったんですけど……。もしかしなくても、この部屋すっっごくお高いんじゃあ」
「さあな」
「私、あまり持ち合わせありませんよ」
「安心しろ。遼に払わす気なんてねぇよ」
「……すごい男前な台詞の筈なのに、嫌な予感しかしないんですけど」
不安げな遼に、沖田はますます口もとを歪めた。
「じゃあ、入るか」
「え?」
「風呂」
立ち上がった沖田に手首を掴まれ、遼は耳まで赤くなって俯く。
「赤くなりやがって。何期待してるんでい?」
「きっ、期待なんて、して、ません」
「ふうん。まぁいいや、入るぜ」
些か強引に手を引かれ、遼は黙って後をついていった。
少しだけ、この先に待っている行為を期待している。
この旅行が決まった時から遼は、少し浮き足立っていた。沖田との関係がもう少し進むのではないか、と。
(一緒にお風呂は想像してなかった……わけじゃないけど)
いざその時を前にするとやはり恥ずかしさが勝ってしまい、僅かに躊躇いが生まれた。
脱衣所に入り、背中合わせで着物を脱ぎながら浅く深呼吸する。
行為自体は何度か経験しているが、裸を見られるのは恥ずかしいし、自信も無かった。
改めて自分の体を見下ろして溜息をつく。
(高望みはしないけど、もうちょっとこう……)
「何ぼーっとしてるんでぃ。入るぜ」
「あ、はい」
タオルを掴み、慌てて前を隠した。