第26章 束縛(沖田裏夢)
(なんて、幸せなんだろう)
沖田の言葉は甘く優しいものでは無いけれど、その奥に隠れた想いが伝わってきた。
「何笑ってんでぃ?」
「総悟さんの傍に居させてもらえるのが嬉しくて」
「束縛されて喜ぶなんざ、本当にアンタはMだな。こんな変態女、扱ってやれんのは俺ぐれぇだぜぃ」
沖田は半ば呆れたような溜息をつくと、遼の手を取りそっと握る。
「ほら、行くぞ。
今度はフラフラ出来ねぇように、手ぇ握っててやる」
「はい」
満面の笑みで頷いた遼に、沖田も堪らず相好を崩した。
頼りなくて、愛おしい。
握った手に少しだけ力を込めると微笑む遼と目が合い、支えたい、守りたいと強く思った。
「なあ、――俺以外の前で、そんな顔して笑うなよ」
「どういう事ですか?」
「普段は目一杯気ぃ張って、冷静を装ってるアンタがこんなに可愛いなんて、「誰か」に教えてやる必要なんてねぇ。
子どもみたいに笑うのも、女の顔して泣き縋る表情も、俺だけのもんだ」
熱烈ともいえる沖田の告白に、遼は何度か瞬きを繰り返す。
ゆっくりと浸透した沖田の言葉に、遼の頰や耳が赤く染まった。
「あ、あのっ、総悟さん」
「遼、アンタの心も体も、髪の毛一本だって誰かにくれてやる気はねぇからな。
だからアンタは、毎日、毎分、この一瞬でさえ、俺の事を――
いや、俺だけの事を考えてりゃいい」
絡めた指先が僅かに震えて、ほんの一瞬見つめ合う。
「俺に、惚れ続けてろ。わかったな?」
「はい」
一つの迷いもなく頷いた遼に、沖田は極上の笑みを浮かべ、無防備なその頰に軽く唇を落とした。
「おっ、往来ですよ?!」
「だからだよ」
驚く遼の姿に満足した沖田は繋いだ手を軽く引くと「行くぜ」と歩き出す。
「行くってどこへ?」
「旅館に帰るんだよ。今日はもう、俺のことしか考えられねぇようにしてやるよ」
「?」
ニヤリと笑った沖田は、意味がわからず首を傾げた遼の耳元に唇を寄せた。
「身も心も全部、俺で一杯にしてやる。朝まで寝かさねぇよ」
「なっ!」
「冗談でぃ。まぁ取り敢えず、風呂にでも浸かってまったりしようぜ」
沖田の提案に、遼は「そうですね」と頷いて絡めた指先に、力をこめる。