第26章 束縛(沖田裏夢)
休暇を利用して旅行に出掛けた沖田と遼は、並んで街を歩いていた。
荷物は既に旅館に置いてきた為身軽なのだが、土産物屋に興味のない沖田は些かつまらなそうな表情で闊歩している。
(ったく、折角良い部屋取ったってのに、ゆっくりも出来ねぇ)
観光がしたいと遼にねだられて、渋々外に出て来たのだが、沖田としては邪魔の入らない空間でゆっくりしたかった。
早々に切り上げて早めに風呂にでもつかろうかと思ってふと隣を見ると、居たはずの人物が消えており、慌てて辺りを見回す。
「っ、何処行きやがった?」
来た道を戻り、建ち並ぶ店を確認すると、熱心に土産物を吟味する遼の姿を見つけてその手を取った。
「あれ、どうかしました?」
「ったく、何フラフラ歩いてるんでぃ」
首を傾げる遼に、沖田は大仰に溜息をつくと、掴んだ手を離して軽くデコピンをする。
「いたっ!」
「アンタときたら、いちいち手綱を握ってねぇと何処に行くかわからねぇな」
「もしかして私、はぐれてました?」
至って暢気な遼に呆れつつも、無事だった事に安堵していた。旅先とはいえ職業柄面倒事に巻き込まれやすい為、遼の姿が視界から消えたのは沖田を不安にさせるには十分だった。
「すみませんでした。気を付けますね」
「そうしてくれ」
「でも、私が何処に行っても迎えに来てくれるじゃないですか。だから、大丈夫ですよ」
にこにこと告げる遼に、沖田は眉間の皺を深くする。
「迎えに来るから大丈夫って……。
はあっ、何で俺が」
「きっと、惚れた弱味ってやつですよ」
「誰が、誰に惚れてるってんでぃ?」
「もちろん、私が、総悟さんに、ですよ」
何故か自信満々に胸を反らせて答える遼に、沖田ははくすりと笑った。
「そうそう。よく解ってるな。アンタが俺にぞっこんなんだ」
「はい」
頷いた遼の頰を、沖田の指先が滑るように触れる。
優しいその指先に、遼は目を細めて微笑んだ。今この瞬間が幸せだと、胸が一杯になる。
「もうアンタは、俺無しじゃ居られねぇだろ。だから俺は、アンタの主人として迎えに行く。どこに行ったって、絶対に連れ戻す」
決意にも似た沖田の告白は、遼の胸を強く揺さぶった。