第22章 本気で悪戯すると後が大変【沖田、土方夢?】
「ほんっと、デリカシーの欠片もないんですから!」
「おまっ、本気でやりやがったな」
身を起こした沖田は、額の血を拭いながら詰め寄るが、遼は顔を背けて「自業自得ですよ」と、冷たくあしらった。
その様子を見ていた土方は、今朝の事を思い出してつい余計なことを言ってしまう。
「遼は別に、太っちゃいねぇだろ。今朝裸を見たけど……あ」
数秒の沈黙ののち、我に返った遼の顔が朱に染まった。
土方がまずいと思った次の瞬間に目に映ったのは、青く澄み渡った空で、殴り飛ばされたと気づくまで少々の時間を要する。
「最っ悪っ!!揃いも揃ってっっ!」
「あーあ、土方さんまで殴っちまいやがった」
「え……あっ」
自分の拳を見つめて、遼は顔を引きつらせた。
沖田には、仕返しと称して手や足が出ることは多少なりあったが、苛立っていたとはいえ、直属の上司に手を出してしまった。
変な意味ではなく。
「やばい」
「切腹もんだな」
「いや、だってこれは」
「マヨネーズでとち狂った上司にセクハラされたからって、本気で殴るのはいただけねぇなァ」
沖田に責められ、遼は動揺しつつ土方に駆け寄った。
「あの、副長、すっ、すみませんでした!」
「いや、俺も悪かっ――」
身を起こしつつ遼の表情を窺った土方は、思わず息を止めて静止する。
見下ろしてくる遼の表情は、叱られることを覚悟してかやや強張っていて、目元がわずかに潤んでいた。不安げなその様子は、加虐心をくすぐると同時に今朝の記憶を呼び起こす。
「副長?」
声を掛けられ、慌てて意識を引き戻す。
「大丈夫だ」
冷たく言い放って立ち上がった土方に、遼は助けを求めるように沖田を振り返るが、沖田の視線は遼にはなく、土方を睨みつけていた。状況が理解できずに困惑していると、屯所の方からやってきた隊士が土方に声をかける。
「副長、見回りの準備が整いました。いつでも出発できます」
「行くぞ、神武」
「あっ、はいっ!」
慌てて駆け寄ろうとした遼は、手首に繋がれたままの紐を思い出し、その先に居る沖田に視線を移した。
不機嫌さを隠そうともしない沖田に、遼は遠慮がちに名前を呼ぶ。
「沖田隊長、見回り、行きましょう」
「ああ」