第22章 本気で悪戯すると後が大変【沖田、土方夢?】
食事を済ませた遼は、沖田と一緒に車庫に向かう。今日の見廻りは、不逞浪士に遭遇する確率も高く、本来なら一層気を引き締めて挑むところだ。
「あの、沖田隊長……この紐、何ですか?」
「迷子紐に決まってんだろ」
「どちらかと言うと、犬のリードに思えるんですけど」
「似たようなもんだろ」
「どこが?」と疑問を飲み込んで、遼は沖田のやや後ろを歩く。
右の手首につけられた紐が、歩くたびにぶらぶら揺れた。警察の制服に身を包んだ二人の光景としては、異様なことこの上ない。
「沖田隊長、これだと刀を抜きにくいんですが」
「お前が刀を抜かなくていいように俺が守ってやる」
「状況が状況でなければ、とんだ殺し文句ですね」
重い溜息をついた遼は、手首の紐を玩びながらその先を見やった。何を思ったか、沖田は紐の先を自分の手首に結びつけている。ある程度長さがあるので普通に動くのには支障はない。
(意地悪の一環ってだけじゃないと思うけど……)
「何やってんだ、お前ら?」
「あ、副……」
「運命の赤い糸ってやつですぜ」
「沖田隊長、赤くもなければ糸でもないんですけど」
沖田のボケにつっこんでいると、不意に紐が結ばれた方の手首を掴まれて、遼は驚いてそちらを見る。
「えっ、あの……?」
「仕事の邪魔だ。さっさと取れ」
苛立たし気な土方に、遼は思わず怯んでしまう。もしや、何かバレてしまったのかと身を固くすると、沖田に紐を強く引っ張られ、バランスを崩した。
「うわっ」
「ほい、キャッチ」
ギリギリのところで沖田に抱き留められ、遼は沖田の腕の中に納まる。
「やっぱり必要だな。迷子紐」
「いや、今のは総悟くんのせいじゃないですか」
「勤務中は名前で呼ばねぇんじゃないのか?」
「え、あ、咄嗟の時は仕方ないですよ!」
にやにやと笑う沖田に、遼は慌てて弁明するが、聞く耳など持ってくれない。
「もうっ、いいから離してくださいよ。身動きとれないじゃないですか」
「遼、お前……ちょっと太ったんじゃねぇか?」
「……ひ、人が気にしてることをっ!!!」
怒髪天を突いた遼は、沖田から離れて背後に回ると、そのままバックドロップを仕掛けた。
見事に技が決まり、沖田が地面にめり込む。