第22章 本気で悪戯すると後が大変【沖田、土方夢?】
朝議を終えた遼は、重い足取りで資料室へと向かった。
朝議の間、何度か土方の視線を感じ、沖田には何度も睨まれ、正直朝議の内容は殆ど頭に入っていない。針のむしろとはこういった状況を言うのだろう。
生きた心地がしない。
午後からの事を思うと、鉛を飲み込んだように腹の奥が重たくなった。
土方と二人きりというわけではないが、二人きりにならないとは限らない。
本当に何もなかったのだから、別に遼がアレコレと思い悩む必要はないのだが、「責任を取る」と言った後の土方の、あの真剣な表情が思い起こされて居た堪れなくなった。
「ああ、いっそ午後から体調不良だってお休みさせてもらおうかな……」
近藤に頼めば、きっと容易に休ませてくれるだろう。だからこそ、簡単に頼ってしまいたくはなかった。
資料室の扉を開けて中に入ると、遼は部屋の奥まで行き、必要な資料を集めて仕事を始める。
集中していたためか、思っていたよりも早く仕事が片付いてしまい、遼は軽く伸びをすると、早めの昼食を摂るために食堂へ向かおうと立ち上がった。
「遼?」
「え?」
不意に名前を呼ばれて振り返ると、煙草をくわえた土方と目が合い、遼は反射的に「ここは禁煙ですよ」と言って咥えていた煙草を取って携帯灰皿に捨てる。
あまりに自然に対応してしまい、遼は状況を思い出すのにしばらく時間を要した。
「うわっ、あのっ、すみません!!」
慌てて飛びのいた遼は、どうしていいのかわからなくなってその場から急いで逃げる。
逃げたところで、狭い屯所の中だ。逃げきれるものではない。けれど、顔を合わせたら間違いなく今度は墓穴を掘る。今も掘った気がするが、次は多分、取り返しのつかない墓穴を掘ってしまうだろう。
先ほども、声を掛けられた時はごく自然にいられたが、徐々に色々思い出してしまい、不自然にまで意識して動揺した。思い出しても恥ずかしい。
「え、あれ?」
はたと、先ほどのやり取りを思い出す。
声をかけて振り向いたのは、別の人物に呼ばれたと思ったからだった。なぜなら――
「副長さっき、私の事名前で――」
気付いて、全身が総毛だった。それは、嫌な予感に近い。
「いやいやいや、そんなまさか。ないない。絶対あり得ない」