第20章 愛、屋烏に及ぶ【近藤裏夢】
「お話は、後でゆっくりしましょう。お仕事、頑張って来て下さい。玄関でお待ちしてますね」
「えっ、客間で待ってて良いんだよ」
「いえ、今日はお天気もいいので」
「では」と頭を下げて、遼は玄関へ向かう。
真選組に来ると、色々な人と出会える。
隊士は勿論、他の警察関係者や、出入り業者、そして、隊士達の友人知人など、遼の世界には縁遠かった人たちと知り合うことが出来た。
今日もこうして近藤を待って居るだけで、何人もが挨拶をしてくれる。
それだけで、幸せだった。
(勲さんのおかげで、私の中の空白が埋まっていく気がします)
こんなにも与えられるばかりで良いのだろうかと、遼は申し訳ない気持ちになる。
「ごめん遼さん、お待たせ」
「いえ。では、参りましょうか」
遼はにこりと笑って、そっと握った近藤の手を引いた。
「そーゆーのって、俺の役目じゃない?」
「だって、勲さんは遠慮してあまり触って下さらないでしょう」
「遠慮してるわけじゃないよ。何と言うか、この年になると気恥ずかしくて」
そう言って近藤は空いた手で頰を掻く。遼とは、恋人期間もそこそこに婚約した為、いまいち距離感が掴めなかった。
本能のままに、触れて良いのだろうか──
「悪い大人だなぁ」
「?」
「いや、コッチの話。今日はどこに出掛けようか」
「勲さんと一緒なら、どこへでも」
屈託なく答える遼に、近藤は眉尻を下げる。
(今日も、抑えられそうにないな)
繋いだ手にほんの少し力を込めると、遼が不思議そうに近藤を見上げた。その表情を見るだけで、むくむくと黒い感情が湧き上がり、傷付けてしまいたくなる。
無垢で、純粋なその顔が、欲に塗れていくあの瞬間を──
「勲さん?」
黙り込んでしまった近藤に、遼は首を傾げた。
「ああごめん。何でもないよ。じゃあ今日は、江戸城の方に行ってみようか」
「はい」
頭を振って余計な考えを頭から追い出すと、遼の歩幅に合わせて歩き始める。
遼に聞こえぬよう溜息をついた近藤は、せめて明るい内は理性が持ってくれよと、独り言ちた。