第20章 愛、屋烏に及ぶ【近藤裏夢】
【愛、屋烏に及ぶ】
いつものように真選組の屯所を訪れた遼は、警護の隊士と挨拶を交わし、近藤の待つ局長室へ向かう。
庭では隊士達が思い思いに過ごしていて、遼に気付くと声を掛けたり手を振ったりしてくる。
ただ一人を除いて。
「また来たんですかい。あんたも大概暇人だな」
「ごきげんよう。今日は事前にお約束をして来ましたよ」
冷たくあしらわれても、にこにこと応対する遼に、彼──真選組一番隊隊長沖田総悟の表情が険しくなった。
「女子供が頻繁に出入りしてるなんて、士気が下がっていけねぇや。用が済んだらとっとと帰りな」
「大丈夫ですよ。今日はこれから勲さんとお出かけですから」
沖田の嫌味が通じているのかいないのか、遼は変わらず笑顔を崩さず、それが沖田をますます苛立たせた。
どんなに沖田が口撃しても、遼はへこたれる様子がない。それどころか、暖簾に腕押し、立て板に水といった様子で、全く意に介さないのだ。
思った反応が無い事に沖田は眉を顰める。そんな沖田の背後に意中の人を見つけた遼は、一層表情を輝かせた。
「ごきげんよう、勲さん。時間より早く着いてしまいましたかしら?」
「いやいや、時間通りだよ。でも、もう少し片付ける仕事が有るから、待っていて貰えるかな。総悟、暇なら遼さんの相手を──」
「死んでも嫌ですぜ。俺は昼寝でもしてきまさぁ」
「あっ──ったく、何怒ってんだ、アイツは?」
不機嫌な沖田に、近藤は首を傾げて不思議がるが、理由のわかる遼は笑顔のまま「嫌われてしまいました」と答える。
「総悟が、君を?」
「はい。きっと、お寂しいのではないですか」
「寂しいって、何で??」
「きっと、勲さんを私に取られてしまったからですよ」
「取られたって」
「だって、沖田さんは勲さん大好きですから」
断言する遼に、近藤は腕を組んで「うーん」と唸る。
(確かに総悟は俺に懐いてるけど、そんな理由で意地悪するか?)
迷宮に陥っている近藤の袖を引っ張って、遼はにこりと笑った。