第18章 情炎(土方裏)
いつものように振る舞おうとすればするほど、声が上擦り、体が震えた。覚悟なんて何一つ決まっていない。狡い心が、逃げ道ばかりを探して彷徨っていた。
「謝らないと……許して貰えなくても、ちゃんと」
心のどこかで、土方の優しさに甘えようとしている。トッシーとの事は、遼が望んだのではないと理解して許して貰えるのだと。
確かに、始めは抵抗しようとした。けれど、気付けば自分から行為の先を求めていた。
どう伝えても土方を裏切った事実は変わらない。
お盆を手に居間に戻った遼は、土方の前に徳利と御猪口を置くと、一杯だけ酌をしてから対面に座って窺うように表情を見た。
「どうした?」
「あの……その、十四郎さんに謝りたくて」
「謝るって何をだ?」
不思議そうに酒を煽る土方に、遼はその先の言葉が継げなくなり、開きかけた口を引き結ぶ。
涙を零さずに告げる自信が無くなり、迷いばかりが心を支配した。
その様子をどう受け止めたのか、土方は立ち上がり遼の隣に座りなおして抱き寄せた。
「この世の終わりみてぇな顔してるぞ」
「……っ」
「何を謝る気かは知らねぇが、俺はそんなに心が狭くねぇから安心しろ」
その言葉に、遼は慌てて土方に抱きつきその胸元に顔を埋める。そうしないと、涙が溢れて止まらなくなりそうだった。
遼の思いとは裏腹に、土方はその姿を甘えているのだと捉え、優しく背中を撫でさする。
そしてそのまま行為に及ぶため、遼の帯に指を掛けようとした瞬間、体が離れて指先は虚しく空を掻いた。
「十四郎さん、ごめんなさい。私、……今日は全然家事ができなかったので、もう少しお台所にいますね。十四郎さんは明日もお仕事でしょう?」
「あ、ああ、朝議に間に合うようにはいくつもりだ」
「じゃあ、早くお休みになってくださいね」
遼は立ち上がると、「おやすみなさい」と言って慌ただしく台所に消えていく。
残された土方は、熱を持ち始めている下半身を確認すると、大きくため息をついた。
正直、その気になっていたのだが、無理矢理にまで行為に及ぶつもりはない。
酒杯をあおると、遼を追って台所を覗き見る。
聞こえてきたのは、うずくまり忍び泣く遼の声で、土方は堪らず駆け寄った。