第18章 情炎(土方裏)
夕食を終えた土方は、風呂に浸かりながら思考を巡らせていた。
遼の態度がおかしい。漸くトッシーから解放され、日常が戻って来たと思っていたのに。
トッシーでいた間の記憶は曖昧だが、感覚的に覚えている事も有った。万事屋に行った事や、一緒に外出したり食事をした事。そして、──夕べの行為。
トッシーは欲望に忠実に遼を抱いていた。
土方が躊躇っていたハードルをいとも簡単に越えて、遼の感情を揺さぶっていた事が、悔しくて仕方ない。
醜い独占欲と嫉妬心。
「何で自分に嫉妬しなきゃならねぇんだ」
馬鹿馬鹿しいと、思考を無理矢理断ち切り風呂を出る。
寝室の前を通ると、遼が眉根を寄せて悩んでいた。
「何やってんだ?」
「あっ、すみません。あの……十四郎さん、お願いがあるんですけど」
「お願い?」
「はい。今日は十四郎さんのお部屋で寝て頂いていいですか?」
予想外のお願いに土方が返答に困っていると、遼が申し訳なさそうに言葉を続ける。
「実は、お布団を干すのを忘れていて。十四郎さんのお部屋には、お客さん用のお布団を用意してるので、十四郎さんが良ければそちらで寝て頂けたらな、と」
「ああ、別に構いやしねぇが……」
「すみません。じゃあ、私もお風呂頂いてきますね」
そう言って風呂に向かった遼を見送って、寝るにはまだ早いと、土方は居間に行き煙草に火を点ける。
肺一杯に吸い込むと、少しだけ焦燥感が落ち着いた。
煙草をふかしながら、土方は不思議な感覚に陥る。遼と結婚してから約3か月。何度も体を重ねてきたはずなのに、今日は無性に遼を抱きたくて仕方が無かった。遼の中からトッシーを消してしまいたかったのか、それともただ欲情しているだけなのかは解らなかったが、今夜は自分の感情に身を委ねてしまおうと、細く煙を吐き出す。
そんな事を考えながらぼんやりとしていると、風呂から戻った遼に声を掛けられた。
「十四郎さん、眠れないならお酒を用意しましょうか?」
「ん、ああ……頼む」
「温めますか?」
「いや、冷やでいい」
酒を用意するために台所に来た遼は、ほっと息をつく。