第17章 企画【〇〇しないと出られない部屋】
(近藤さんとの時は、さっきみたいに私から抱き付いた。体勢は関係ない筈。だとすると、あの時と違うのは……私が、抱きしめられていないって事だけか)
近藤にハグをした時は、よろけた体を支えるために抱き合った形になっていた。その直後に扉が開いた覚えが有ったので、可能性としてはそれが高いだろう。
(という事は……副長に、ハグして下さいってお願いしなきゃいけないって事?!)
想像するだけで耳まで真っ赤になった遼は、また思考の迷路に迷い込んでしまった。
その様子を見ていた土方は、天井を仰ぎ見て覚悟を決める。
一度で駄目なら、もう一度挑戦してみるしかない。
「神武、そのまま動かずに正面向いて立ってろ」
「え、あ、はい」
土方からの突然の指示に、遼は直立したまま身を固くした。
沈黙が、より緊張を高める。
背筋を伸ばして指示に従う遼の背中を見つめて、土方は薄く微笑んだ。
遼が無条件に自分に従うのは、信頼関係が築けているからだろう。
そしてそれを、嬉しく思っている。
「すぐ終わるから、動くなよ」
遼が頷いたのを確認すると、土方はゆっくりと近付き、背後から抱きしめた。
暫くそうしていると、ガチャリと音を立てて扉が開く。
「開いたな。ったく、こんな事して一体……」
「……か」
「ん?」
「どうしてするって予告してくれないんですか!!」
顔を真っ赤にして訴える遼に、土方はニヤリと笑って回した腕に力を込めた。
「お前だって予告無しだっただろ」
「失礼しますって言いました!」
「あんなんで解るか」
「取り敢えず離して下さい!!」
遼は土方の腕を引き剥がそうと奮闘するが、一向に離れる気配が無い。
「ふ、副長っ、揶揄わないで下さい!」
「別に揶揄っちゃあいねぇよ」
「は?」
ぱっと腕が離されて、遼は土方をふり仰ぐ。
優しく微笑む土方と目が合い、遼は言葉を失った。
「──っ!」
「何だ?」
「何、でも、無いです」
消え入りそうな声で答えた遼に、土方は満足げに喉を鳴らして笑う。
「今日は、この位にしておいてやるよ」
土方のこの言葉が現実になるかは、遼はまだ知らない。