第15章 失われた日々(銀時裏夢)→(土方夢)
「今日は、本当にありがとうございました。あの……近藤さんにも、宜しくお伝え下さい。今日の事は、あまり気を遣わなくて大丈夫ですから」
念押しにそう告げると、土方さんは一瞬言葉を探すような表情になった後、ニヤリと妖しく笑う。
「そうだな、ちゃんと伝えておく。お前の方も、女将さんに宜しく伝えておいてくれ」
「はい。それでは、ありがとうございました」
改めて御礼を言ってタクシーから降りると、扉が閉まり走り出した。
姿が見えなくなるまで見送って、やれやれと息をつく。
「土方さん、いい人だったな。今度沖田さんに会ったら、嘘ばっかり教えないでって言わないと」
確かに瞳孔はずっと開いていたし、目つきも悪かった。
淡々としているように見えて結構頑固だし、怒りっぽい。
けれど、優しい人だった。
似ていないのに、とても似ていた。
「銀ちゃん……」
思わず呟いた名前に、ぞくりと背筋が震えた。
まだ彼に、恋をしている。
完全に関係が断ち切れるのが怖くて会いに行けず、こそこそと逃げ回るように店を変え、住まいを変えた。
「そろそろ決着つけないといけないよね」
溜息をついて家に入ると、まってましたと言わんばかりの伯母に捕まり、当たり障りの無い感想を伝える。
「私には勿体ない程の素敵な方でした。ですから、後はあちらにお任せします」
断り切れない時の定番の文句に、伯母さんはやや残念そうにしていたが、本当に私には勿体ない程の人なのだから仕方がない。
「着替えてきます」と、借りている部屋に戻って着替えを済ませて夕飯の用意を手伝おうと台所に降りると、やや興奮気味の伯母に声を掛けられた。
「今、あちらから連絡を頂いてね、また会いたいって仰ってたわよ」
「……は?」
「連絡先、伝えておいたから、ちゃんとお応えするのよ」
「ちょっ、伯母さん、どういう事ですか?!」
「そういう事よ。ふふっ、良かったわねぇ」
ウキウキとした様子に呆気に取られていると、早速携帯電話が見慣れない番号からの着信を告げる。
覗き込んでくる伯母から逃げるように部屋に戻り、恐る恐る通話ボタンを押す。
「はい、もしもし神武です」
『おう、今日ぶりだな』
「沖田さん?」
『アイツだと思ったか』
「……用事が無いなら切りますよ」
いたずら電話かと呆れていると、電話口で揉める声が聞こえてきた。