第15章 失われた日々(銀時裏夢)→(土方夢)
自覚してはいけないと、慌てて自分に言い聞かせる。
「どうかしたか?」
「いえ。何でもないです」
気付かれないように、芽生え始めた感情をそっと封じ込めて鍵をかけた。
「土方さん、そろそろお開きにしましょうか」
「ん、ああ……じゃあ、家まで送ってやる」
「子どもじゃないんですから、一人で帰れますよ?」
「阿呆か。こういう時は、それがマナーなんだよ。それに、女を一人で帰らすなんて、俺の矜持が許さねぇ」
「そ、れは、どうも」
気を遣っての一言なのだろうが、何せ顔がいいからどんな台詞も様になる。
頭の隅で、あの人だったらどう言うだろうかと考えてしまい、一人で落ち込んだ。
背格好が似ているだけの土方さんに姿を重ねてしまうなんて最低だと思うが、それでも何故か今になってあの人が恋しくなっている。
「大丈夫か?」
「えっ、はい……着物が少し苦しかっただけです」
そう嘯いた私に気付いたのか、そうでないのか……
土方さんは店の人にタクシーを回して貰うよう頼み、何も言わずに玄関へと歩き出した。
その後ろをついて行き、二人でタクシーに乗り込むと、土方さんは改めて私を気遣ってくれる。
「そっちに車を回してもらうが、家の正面でいいか?」
「はい。わざわざすみません。やっぱり、着慣れない格好は駄目ですね」
努めて明るく答えると、土方さんの表情も和らぎ、また胸の奥がドキリと跳ねた。
「土方さん、あの……今日は、ありがとうございました。それから、色々と付き合わせてしまってすみません」
「ま、お互い様だろ」
「良かったら、近藤さんや沖田さんとお店に遊びに来て下さいね。今日のお詫びに、お団子くらいご馳走しますから」
「……なぁ、」
言いかけて止めた土方さんは、軽く溜息をついた後、じっとこちらを凝視してくる。
その視線に応えられずにいると、目的地に到着したタクシーが停止して扉が開いた。
慌てて財布を取り出そうとすると、やや呆れた表情の土方さんにその手を止められる。
「阿呆か。俺は屯所に帰るから、支払いはその時にしておく」
「でも、」
「男の矜持だ」
ふっ、と笑った土方さんにつられて笑うと、「ありがとうございます」と頭を下げた。