第15章 失われた日々(銀時裏夢)→(土方夢)
「この話、遠慮せず断って下さって大丈夫ですから」
「は?」
「土方さんは優しいから、きっと気を遣って下さるでしょう?
一度で断ったらとか、男性側から断るなんてって。でも、伯母にはうまく伝えておきますから」
そう言って笑うと、土方さんは眉間の皺を深くして、吸っていた煙草を携帯灰皿に押し付けた。
「断りたいなら、自分で言え」
「そんな、私からなんて──」
「どうせその気も無かったんだろ。遠慮なく断ってくれ」
苛々とした様子でそう言われ、私も思わず売り言葉に買い言葉で言い返してしまう。
「その気が無かったのは、土方さんだって同じでしょう?
ですから、土方さんから断って下さい」
「あのな、俺の方から断ったらお前の風聞に関わるだろ。それに俺は、女に恥をかかすのは趣味じゃねぇんだよ」
「私だって、男性の矜持を傷つける趣味はありません。天下の真選組副長が、こんな小娘に袖にされたなんて噂が立ったらどうするんですか」
そこまで言って、私と土方さんは顔を見合わせて思わず吹き出した。
何て不毛な争いだろう。
どちらも意固地になって断れと押し付けあい、引くに引けなくなってしまった。
「この話、一先ず終わりにしませんか?」
「そうだな。それにしてもお前、意外と頑固なんだな。てっきり大人しいお嬢さんかと思ってたが……」
「それは、まあ、今日は特別ですから」
すぐ剥がれるメッキだったが、一応おめかしに合うような態度を心掛けてはみたのだ。
慣れない化粧も、派手な着物も、いつもの自分とはほど遠い。
今日の相手が土方さんでなければ、きっと最後まで猫を被っていたのだろう。
「だから雰囲気が違ったのか」
「え?」
「近藤さんと店に寄った時に、何度か見た事があったからな」
まさか認識されていたとは思わず、少しだけ申し訳なく思った。
近藤さんや沖田さんは、店に寄る度に声を掛けてくれていたが、正直土方さんの印象は無いに等しい。
(何だかすごく、申し訳ない……)
キリキリと痛む胃を押さえていると、不思議そうな顔の土方さんと目が合ってしまい、反射的にへらっと笑ってしまう。
「ふっ……お前、そればっかりだな」
「すみません、癖で」
「さっきも聞いたな、ソレ」
優しく目を細めた土方さんに、思わず目を奪われた。
視界がチカチカして、何度か瞬きを繰り返す。
この感覚は、以前にも味わったものだ。