第15章 失われた日々(銀時裏夢)→(土方夢)
近藤さんや、何故かこの場に着いてきている沖田さんとは、面識も交流もあるけれど、土方さんはよくわからない。
お客さんとしてお店に来た事はあるのだろうが、接客したりした経験が無いので、正直恐い印象しか無かった。
今もちょっと恐い。
あの目は、私の古い記憶を擽る目だ。
「じゃあ、後は二人で」
「えっ?」
いつの間にかに話が進んでいて、伯母さん達が部屋を出て行く。
去り際沖田さんがニヤリと笑って手を振った。
(やっぱり揶揄う為に来たんだ)
明日以降、全力で揶揄われるのかと思うと軽い頭痛がする。
「……庭に出るか」
「えっ、あ、はいっ」
沈黙に耐えかねたのか、誘われて庭に出ると、先を歩く土方さんの背中をぼんやりと見上げた。
こちらを気遣ってか、ゆっくりと歩くその姿に、ほんの少し……いや、正直目頭が熱くなる程に胸が苦しくなる。
背格好が似ているだけだと言い聞かせて深呼吸していると、振り返った土方さんと目が合った。
「悪かったな」
「え?」
「こんな事に付き合わせて」
「えっ、あの……それは、こちらの方です。きっと、伯母さんが強引に話を進めてしまったんでしょう?
いい人がいるって、とても盛り上がってましたから」
申し訳ないと苦笑しつつ謝ると、張り詰めたような雰囲気が無くなり、土方さんの表情が和らいだ。
「煙草、いいか?」
「は、はいっ、どうぞ」
懐から煙草を取り出して火をつけるその仕草に、思わず見蕩れてしまう。
やはり、見た目が良いと何をしても様になるのだと感心していると、窺うような目で見られて、へらっと笑ってしまった。
その表情を見てか、土方さんがくすりと笑う。
「何だそれ」
「す、すみません。お店のクセで、目が合うととりあえず笑ってしまって……すみません」
「ガンつける俺よりかよっぽどいいだろ」
思い掛けない一言に驚いた。
沖田さんから聞いていたエピソードのせいで、てっきり恐い人だと思っていたが、どうやら私が先入観を抱きすぎていただけらしい。
「土方さんは、優しいですね」
「は?」
「気遣って下さって、ありがとうございます。今日も、本当はやむを得ず来て下さったんでしょう?」
煙草を持つ手が一瞬止まり、やっぱりと確信した。
優しい人だから、色々なしがらみを考えて、断り切れずに来てしまったんだろう。
これ以上困らせるのは本意ではない。