第14章 募る想い(土方裏夢)
少しだけ悲しそうな表情で尋ねる遼に、トッシーはますます戸惑い、思わず「どうして」と聞いていた。
「あ、いや、嫌だったら──」
「その着物、私が選んだんです。でも、まだ袖を通した事がないから」
その表情に、トッシーは遼の想いを感じ取り、着物を箪笥に戻して土方が着慣れている藍色の着物を出してにこりと笑う。
「じゃあ、これにするでござるよ。着替えるから、外で待っててくれるかな?」
慌てて出て行く遼に苦笑しつつ、トッシーは広げた着物に袖を通した。
馴染んだ着物を着て姿見の前に立つと、情けない表情の自分と目が合って顔を背ける。
「僕は、十四郎じゃない」
溜息をついて部屋を出ると、煮炊きの匂いが鼻腔を擽り、引き寄せられるように台所に向かうと、遼が忙しなく動いて何かを作っていた。
その姿を見ているだけで満たされるような気がして、トッシーは知らず微笑む。
暫く様子を眺めていると、トッシーに気付いた遼が振り返って苦笑した。
「声を掛けて下さったらいいのに」
「君を見てるだけで楽しくて」
「楽しい、ですか?」
「うん。だから、もう少しここに居てもいいでござるか?」
蕩けてしまいそうな笑顔で尋ねられ、遼は赤くなる顔を隠しながら「どうぞ」と答える。
(見た目が十四郎さんだから、破壊力が……あんな笑顔、初めて見た)
皮肉っぽい笑みはよく見るが、破顔した姿は見たことがなかった。
祝言の際に撮った写真ですら仏頂面で写っていて、後で家族に心配されたくらいなのだ。
(足して2で割るくらいがいいのかも)
溜息をつき、鍋をかき混ぜる。
「遼氏、それは?」
「銀さんに昼ご飯をリクエストされたんです。来るなら手土産持参でって」
「坂田氏と遼氏は、その……どういう関係でござるか?」
「結婚前に働いていたお店のお客さんなんで……お世話になったり、お世話したり。まあ、腐れ縁ってやつです」
苦笑する遼に、トッシーは何故か胸が締め付けられるような思いがして、首を傾げた。
湧き上がるこの感情の名前がわからない。
いや、わかりたくないのだろう。
言葉にしてしまうと、否が応にも理解してしまうのだ。
吐き気がするほどの醜い嫉妬心を。