第1章 出会い
ー5月3日・夕方・某高級マンションー
ピーンポーン
「あ、帰ってきたかな?」
新羅はチャイムの主が(セルティが帰ってきたと思った嬉しさのあまり)彼女以外の可能性の方が大きい事すらすっかり抜け落ちていた。
そしてーー
開かれた扉の先にはバーテン服があった。
「……鍵がないとエントランスに入れないタイプマンションに引っ越そうかな、本当」
「よく解らんが、ぶん殴られたいらしいな」
「勘弁してくれ、お前に殴られたら本気で死ぬ可能性を考えなくちゃいけない……あれ?」
静雄の他に、別の人影があることに気が付いた。
「あれ?ええと、静雄の上司の……」
「ああ、紹介すんのは初めてだよな。この人はトム先輩」
「うん、それは解る、解るんだけど……」
新羅の視線は既にドレッドヘアの青年ではなく、静雄の服のすそを握り込んだ中学生くらいの少女に向けられていた。
「その女の子……誰?」
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「じゃ、いいかげん説明してくれるかな?さっきは『まあまあ』とか言いながら強引に上がり込んできたけど、流石に見過ごせないよ?なんか怖がってるじゃんその子」
深い溜息を吐きながら、厳しい視線を突きつける。
「なんで誘拐なんかしたの」
「してねぇって」
静雄がキレる気配を察し、瞬時に否定したのだろう。
自分が命拾いしたことを確認する新羅に対し、トムという男が静雄を刺激せぬように視線を送りながら、淡々と事実を話し始めた。