第1章 何処にいても【潑春】
「何があったんだよ春?」
「うるせぇよ!!全部かったりぃんだよ何もかも!」
草摩潑春くんは近くに転がっていた机を蹴り飛ばす。
王子はそれに驚きもせず、腕を組んだまま暴れる彼に視線を送っていた。
「ねぇ、彼は何に怒ってるの…?」
「ボクにも分からない。でもね、ハルはひまりに会えなくなってからずっと悲しそうだったよ」
金髪ショタに尋ねると、彼は少し物悲しげに微笑んだ。
そんな筈はない。
あんなこと言われて愛想尽かされたに決まってる。
実際、あれから私に会いにくることは無かった。
それが草摩潑春くんの答えだよ。
「ふざけやがって…アイツ等全員、好き勝手なことぬかして笑って…」
「…小山さんのこと?」
私の名前が出たことに目を見開いて彼等を見た。
なんで今、私のことなんか…
「馬鹿だ。俺は…。守られてたことに気付かねぇで…ひまりが言ったこと間に受けて、ひとりで落ち込んで。アイツだけが悪く言われて…」
彼は項垂れるようにしゃがむと、床に散らばっているガラスに向けて拳を振りかぶった。
「春!!!だめ!!!!」
それを見て私は反射的に金髪ショタの手を振り払って叫んでいた。
すると彼はその腕をピタッと止めて怒りが消えた瞳で私の姿をとらえる。
「……ひまり、今名前で…」
その言葉にカァッと顔が赤くなった。
無意識だったけど、私名前で呼んでた…。
彼はゆっくり立ち上がると私の前で立ち止まる。
名前で呼んでしまったことが恥ずかしくて俯いていると、両頬に手を添えて上をむかされる。
久しぶりにちゃんと見る彼は、やっぱりカッコよくてこの近さは正直心臓に悪い。
「もう一回」
「へ?」
「名前。呼んで」
「は…は、る」
「うん…いいね。やっぱり」
近くで、目尻を下げて笑う彼に
私は完全に落ちた。
ダメだ。もうこれはダメ。好きだ。
「ひ…どいこと言って、ごめん」
「気にしてたけど、もう気にしない。ワザと悪者になったの、知ってる」
「え、なんで知って…」
「姉弟は自分の狂言だって広めたのひまりでしょ。クラスの女子に聞いた。もう、ひとりで悪になるのやめて。俺は周りに何言われても気にしない。由希達は馬鹿みたいな噂信じないし、それでいい」