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短編集【果物籠】

第1章 何処にいても【潑春】



私は吐き捨てると、名前を呼んで引き留める彼を一度も振り向くことなく屋上を後にした。


そして扉を出たところで泣いた。


これでいいんだ。

彼に悪い噂が流れるのだけは耐えられない。

こうして私は自分の初恋に幕を下ろした。



















筈だった。


それから私がサボっているときに彼が来ることは無くなった。

結局"生き別れた姉弟"の噂は、私の勘違いだったっていう訂正を広めてもらい"小山 ひまりは頭がおかしい"っていう噂に変わっていった。


本田さん達とも距離を置くようにして、またひとりで過ごすことが多くなり、必然的にサボることも増えてきた。


季節は移り変わり、彼と初めて会った春になっていた。


放課後に帰る準備をしていると、廊下を走ってくる数人の足音。

特に気にすることなく鞄を持って出ようとした時、ドアの前で私を通せんぼする影が二つ。


「ごめん、小山さん。ちょっと一緒に来てくれない?」
「ひまりお願い!!一緒にきてー」


王子様と金髪ショタ。

あの日から草摩潑春くん関係とはワザと距離を置いていたから突然のことに戸惑った。


「ど、どこに…でしょう?」

「いいから早く!!大変なことになっちゃう!」


金髪ショタは私の手を掴むと戸惑う私を無視して引っ張って走り出す。


訳も分からず、ついていくとある教室の前で放課後に残っていたであろう生徒たちが数人集まっていた。



あの教室って…。
嫌な予感がしたが、金髪ショタは私の手を放してはくれなかった。



危ないから離れてて…と生徒たちを避難させると王子だけが教室に入っていく。

こっそり教室内を覗くと、割れた窓ガラス。倒れた机や椅子。

まるで嵐が去ったあとのようにグチャグチャになった教室内に草摩潑春くんは立っていた。


いつかに見た殺気を帯びた出で立ちで。



「春…結構…派手にやったね…」


「あぁ!?文句あんのかよ!?」



めちゃめちゃキレてるー…。

金髪ショタが私の手を握りながら「ひまりは危ないから入っちゃダメだよ」とこっそり言うが、じゃあ何で連れてきた?

王子とこの子は一体何を考えているんだろう…。




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