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短編集【果物籠】

第1章 何処にいても【潑春】




女子生徒は顔を蒼くして顔を強張らせた後、そそくさと逃げるように立ち去る。

それを追いかけようと立ち上がる彼の腕を掴んで止めると、鋭い眼差しのまま私を見ると、舌打ちをして再度座った。


「あー…気にしてないし。大丈夫。ありがとう」


いつもほわーっとしている彼の豹変っぷりに驚いた。


「信じ…ないの?噂」

「あ?一緒に居りゃ分かる。お前も黙ってねーで言い返せよ」


言葉遣いまで違っているとは更に驚いた。


でも…少しだけ嬉しかった。


彼女の言うことを信じなかったこと。
根も葉もない噂に怒ってくれたこと。


「いいよ。キミが怒ってくれたから」

「春」

「え?」

「春って呼べ」


ずっとキミとか草摩潑春くんって呼んでいたのは、そういうタイミングが無かったのと、近くなりすぎない為の予防線だった。

なんだかんだで、サボっていると彼を待ってしまっている自分がいる。

少しでも自分の中で一線を引いておきたくて



「…気が向いたらね」

「はっ。何だよソレ」


彼は吐き捨てるように言うと「教室戻る」と立ち上がりポケットに手を突っ込んで振り向くことなく歩いて行った。



そして今更ながら顔がポッと赤くなる。


春…春って呼んでしまったら私…。


両手で顔を覆って緩んだ筋肉を引き締めた。





教室に戻る途中、廊下で集まっている女の子の横を通り過ぎる時にその会話が聞こえてしまった。


「春ってDV系らしいよ。しかも、二年の陰キャの小山って先輩を脅して学校内でヤリまくってるって」
「えー!ショックー。ありえないんだけど。こっわー」



さっきの女か。噂流したの。
腹の底が煮えくり返るような感覚を抑えながら、噂をしている女の子たちに声をかけた。


「ねぇそれ、根も葉もないただの噂だから信じちゃダメだよ」


精一杯冷静に言ったつもりだったが、私の登場に驚きを隠せないようだった。


「小山…せん…ぱい…」

「私と草摩潑春くんはそんな関係じゃないから」


女の子たちはそれぞれ顔を見合わせるとズイッと私に寄って来る。


「じゃ、じゃぁどういう関係なんですか!?」

「え……」


予想外の質問に、額に滲み出た汗がタラーッと流れた。








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