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短編集【果物籠】

第1章 何処にいても【潑春】




「何も似てない。草摩くんの周りにはたくさん人がいるじゃない」

「うん、いるね。けど、似てる」

「いや、訳わからないし」


この人は本当に何を言わんとしているのか。

不思議君にも程がある。


「由希は今、頑張ってる途中。ひまりも、頑張れ」


また彼は穏やかに笑う。

その笑顔にドキッとした。


「し…らない。何を頑張るの。私は自分で選んで他人と関わることを辞めたの。望んで無い…人と関わることを」


サァっと吹いた風になびいて顔にかかった髪を耳にかけた。

彼は穏やかにまた笑うと、何も言わずに塔屋から降りて屋上を出て行った。







こんな風にして、いつも私のサボり場所に必ず現れる彼と10分程だけ話をする日々が続いた。


相変わらず私の周りは平穏ではなくて。

気が付けば季節は冬になっていた。


平穏ではない日常が心地よくなってきた頃。



温厚な彼の違う顔を知る事件が起きる。



始まりはまた2人で話していた屋上に続く階段でのこと。

その現場を彼の同級生の女の子に見られた。




「え、まじ?2人付き合ってるってマジな噂なの?ありえないんだけど…」


大人びて綺麗なその子は、明らかに嫌悪感を表した顔で私をジロリと睨んでいた。
この様子だと、どうやら草摩潑春くんに気があるようだ。


「春さぁー。趣味悪いってー。この女の噂知ってる?超根暗な癖に、パパ活とかしちゃっててさー」


根暗までは合ってるけど、パパ活とかそんな噂されてたんだ。
初めて知った。

まあ…こういうところよね。

他人と関わるのに嫌気が差す理由。



草摩潑春くんもきっとコレを信じて驚いた顔してるん…


え?


ちらりと彼の顔を見ると目が血走っており、いつもは垂れている温厚な瞳が鋭くなっている。


え?なんかヤバくない?


そんな彼の様子に気づくことなく、目の前の彼女は話を続けている。
私は焦って彼女に気付けーと視線を送るが、私が嫌で止めようとしていると勘違いした彼女は口角を上げていた。



「しかもただのパパ活じゃないんだって。オッサンと寝て」

「あ??黙れ」


初めて聞いた草摩潑春くんのドスの効いた声に、彼女も私もビクッと肩を震わせた。





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