第1章 何処にいても【潑春】
非常階段、体育館の裏…どこに行っても彼は必ず現れた。
「ひまり」
そして何故か名乗った覚えはないのに、ある日突然名前で呼ばれる。
しかも呼び捨て。
ここまで来ると、学校限定のストーカーなんじゃないかと思った。
「…どうして私の名前知ってるのよ」
「由希から聞いた」
草摩潑春くんの言葉に首を傾げた。
由希?由希…?草摩…由希…
あぁ、なるほど。
隣のクラスのファンクラブまで作られている草摩君と同じ名字だったんだ。
通りで聞いたことあると思った。
あれ?ってことは草摩君と草摩潑春くんは兄弟?
兄弟揃って整った顔立ちしてるのね。
ちょっと分けて欲しいわその美貌。
急に草摩潑春くんがくくっと喉で笑い始め、ビクッと私は肩を震わせた。
え、急に笑うストーカー怖すぎるんだけど…。
「ひまり、面白い。百面相」
だが、私はその笑顔に釘付けになる。
いつもの雰囲気と違ってあまりにも無邪気に笑ったから。
ハッとしてすぐに視線を外すと伸ばして座っていた足を引き寄せて体育座りをして、彼から私の顔が見えにくいようにした。
「草摩君に弟がいるなんて知らなかったよ。兄弟揃って綺麗なお顔立ちデスネ」
トゲがあるように言ってしまったが後悔はない。
男前だからってストーカーまがいのことや、年下のクセに急な呼び捨てが許されるわけではない。
そう、私は居場所も次々取られて腹を立ててるの。
「由希とは、兄弟じゃないよ」
「え、じゃあなんなの?」
「…由希は俺の初恋の相手。多分、前世で、生き別れた姉妹…」
遠くを見つめる草摩潑春くん。
これはアカン。
アカンやつや。
薄々思ってたけどただのクレイジーボーイだったわ。
ははっと乾いた笑いをしてこの場を立ち去る為に私はゆっくりと立ち上がる。
すると草摩潑春くんも立ち上がって私の腕を掴むとジッと見つめてきた。
「また可愛い顔見せて?ひまりセンパイ」
吸い込まれそうなその瞳に私が息を飲んでいると、パッと手を離して彼が去って行った。
サァッと吹いた風がまるで火照った顔を冷やすように撫でていく。
ここから私の学校生活は、彼のお陰で平穏とは程遠いものになっていった。