第12章 蠍の火
やがて流星雨は終わりを迎え、東から朝焼けが見え始めた頃。ロドスの廊下には二つの影があった。
一つの影は足取り軽やかに。一つはその少し後ろをついて行く。
さくらは、人生初の流星雨の興奮がまだ収まらないようだ。
「また見れるかなー!うわあ次いつだろう!?」
そう言ってはめ込み式の窓に張り付いては、朝焼けで消えかかっている星を見ようと目を凝らす。かろうじで見える星はもう店じまいと言うように、瞬きをする頃には見えなくなっていった。
それでも、さくらは笑みをやめずにパタパタとその場で足踏みを繰り返す。
その様子をスチュワードは楽しそうにじっと見ていた。そんな彼の右手は、何かを決意したようにグッ、と力強く握られている。
やがて、二人はこれから眠りに入るために自室へとやってきていた。勿論、一人で行かせるわけにはいかなかったさくらの部屋の前だ。
「ごめんね、蠍の火は見れなかったね」
「はは。何で謝るの。多分この世界にはない星だから仕方ないよ!もう見れないのは残念だけどね」
「…ごめんね。何か元の世界の事思い出させちゃったみたいで」
「…いいんだよ。大丈夫。…はは!それじゃ!送ってくれてありがと!おやすみ!」
さくらがそう言うと、スチュワードは意を決したようにずっと握っていた自身の拳を解いて言った。
「待って、さくら」
「?」
振り返った彼女は不思議そうにスチュワードを見上げた。
彼はいつも通りを装いながら、背中に流れる冷や汗を煩わしく思いながら笑顔で言った。
「明後日、僕と出かけない?」
「…え!?どこに!?」
「それは秘密。…行く?」
「行く!絶対行く!」
嬉しそうに笑うさくらがロドスの外へ出たことが無いのは既知の事。ドクターに了承は取ってある。後は自分が誘うだけ。そして今それが成功した。
「じゃあ、約束だね。楽しみにしてるよ」
「うんうん!めっちゃ楽しみ!」
「まだ2日あるよ。ゆっくり休んでね。…それじゃ、おやすみ」
「おやすみ!スチュワード!ありがと!」
礼を述べてから扉がゆっくりと閉められた。
その数秒後、彼は徐に歩き出しては数歩のところで止まり、グ、と拳を作って口角を上げた。
To be continued.