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【アクナイ】滑稽な慈悲

第12章 蠍の火



揺れる瞳を瞬きで抑え込んで、あくまで冷静なフリをして笑いかける。


「こんばんは、さくら。こんな時間にどうしたんだい?」

「眠れなくて」

「どこか痛むの?」

「ううん。ただ眠れないだけ」


あの照れ笑いを見せては、階段を一段、また一段と下りてくる。その足取りは軽快だ。その気分の盛り上がりようは確かに眠れそうになさそうだ。


「あっ」

「!危ない…!」


目の前で傾く体はデジャヴに見えた。瞬時に両手を広げてみると、その体は見事にスチュワードに収まった。前とは逆の立場に、思わずくすりと笑う。


「はは。今度は僕の番」

「ど…いうこと…?」


体勢を立て直したさくらは、踏み外した恥ずかしさと整った顔が間近にいることで、揺れ動く瞳はまともに彼を見れていない。
その赤くなった頬に少しの優越感を感じたスチュワードは、さくらの手を掴み、軽く引いた。


「眠れないなら、僕に少しだけ時間を頂戴」

「え?あ、うん。どこ行くの?」


小首を傾げてついてくるさくらに、振り返ったスチュワードは、


「この世界の星を見せたいんだ」


そう言ってニィ、と笑った。

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