第7章 興味本位
「…思い出に浸るのは良いが、どこか行くのではなかったのか?」
「!あぁそうでした」
元々はトレーニングルームに行く予定だったことを思い出す。
「お時間頂戴してしまいました」
「呼び止めたのはこちらの方だ。それに、それほど硬くならなくとも良い。私はお前を気に入った」
「光栄です。シルバーアッシュ様」
「言った瞬間から硬くなるな。好きな呼び方で構わん」
人を寄せ付けにくい顔をしているくせに人懐っこいネコ科だなぁ、と思いながら一礼する。
「じゃあ、お言葉に甘えることにするよ。これからよろしくしてほしいな、シルバー」
切れ長の目が丸々と見開かれる。ついでに後ろにいるクーリエの顔も驚いたような、焦ったような顔をしている。彼はとても偉い方で、その方に対し大した無礼だと思ったのだろう。だが彼はすぐに口角を上げて右手を差し出してきた。
「私を"そう扱う"のはお前ぐらいだ」
「だって君が崩していいって言うから」
「違いない。だが全ての者は必ず私に下手に出る」
「それはまた物騒なこの世界のルールってやつかな?じゃあ直した方が良いかな」
「構わんと言った。そのままで良い」
面白い人だ、と口角を上げて右手を握る。大きくて硬い手はクーリエと同じく多くの修羅場を越えて来たのだろう。
「クーリエ」
「はっ」
「彼女を導いてやれ」
「御意に」
「さくら、今日はこれまでだが近々また会おう」
「うん、ぜひぜひ」
「その時までには…お前が"アーツが上手くコントロール"できることを願う」
そう言った彼は手を離して去っていった。驚き目を見開いて固まる私はポツリと呟いた。
「見てたんだ、私のアーツ訓練…」
「それも熱心に」
「そ、それは恥ずかしいなぁ」
へらりと笑いながらクーリエを見る。彼は私を見下ろして困ったように笑って見せる。
「シルバーアッシュ様に臆さない人はいない。それはとても凄いことだ」
「そうなの?そんなに偉い人?」
「カランド貿易を仕切る人だからね」
「…そりゃ凄い人だわ。今更臆しちゃってきた…」
「ふふ。もう遅いよ。さぁ、アーツトレーニングルームはこっちだよ」
「あ、うん、ありがとクーリエ」
彼は笑い、私の歩幅に合わせて案内を始めた。シルバーとクーリエの厚意に甘え、彼の後をついて行った。