第2章 天使とダンス
「ドクター!」
ドクターと呼ばれたフードを被った彼は慌てたように、その深い闇の中から言葉を発した。
「アンセルっ…見つかったか?」
アンセルはフルフルとその首を横に振る。可愛らしくも垂れた長いうさぎの耳も髪と同様に揺れた。
「いません…」
「こっちもいなかった…あぁもうどこ行ったんだ、さくらっ…!!」
2人は単純な一人の人間による追いかけっこに惑わされていた。
事の発端はアンセルによる採血実施を今も尚逃げているさくらに伝えたことから始まる。
元々この世界の者ではない彼女が、この世界では有名な病である"鉱石病"を患っていないか検査する必要があった。
困惑したり、迷える人間を誰彼構わず保護する。それがこの組織、ロドスの一任務であり、ルールだった。
さくらはその意向に甘えてこの世界で生きることを決めた。それがたった2週間前のことだ。
今日は2回目の採血となる日で、彼女はロドスの隊員たちから身を潜めていた。
理由は単純。さくらは極度の注射嫌いだった。
メディックであるアンセルによる注射が悪いというわけではなく、ただたんに子供の頃に植え付けられたトラウマを今でも引きずっているというのが正しい。
故に1回目の注射の時もこのような逃亡劇を繰り広げた。その時間は忙しいロドスの隊員にとっては大きな痛手となったが、見捨てるわけにも放置するわけにもいかなかった。
そんなつもりは毛頭ないドクターは、思わず眉間を親指と人差し指で摘まんでは溜息を吐いた。