第20章 無意識の悪魔
しばらく走っていると、デッキが見下ろせる長い廊下に出た。
来た初日はここからよく訓練をしているオペレーターを見下ろしたものだ。…自分が武器を握る方になると思わなかったが。
「なるほどー?あのロドスの全貌が見れて嬉しいなぁ」
不意に、そんな声が聞こえて来て声の方向を見る。
廊下の最奥。ドクターの姿、そして私より若い少女…そして、その両隣に腕を絡められるようにして連れられている2人が見えた。
ドクターはいつも通りの姿勢でその少女の言葉に耳を傾けている。同様に、アドナキエルの顔にはいつもの笑顔があった。…だが、スチュワードは笑顔も繕えないほど疲れているように見える。
途端に、元の世界の柵などどうでもよくなった。
「アドナキエル!スチュワード!」
私の声がやたらと廊下に響いた。
名前の主たちは顔を上げて、目を見開いたまでは良い。だが、こちらに来る気配はない。
小走りに近寄ると、その最中でフードの中のドクターの青い目と目が合った。
その目は素早く2人を見た後、また私の目を見据える。
"早く避難させてくれ"
そう聞こえた。
一度瞬きをして今度は2人の目を見た。
2つの眼はどうしようもないほど揺れていて、助けを訴えているように見え、すぐにその絡まれている双方の手を掴んだ。
「メンテナンス部門からずっと呼ばれてる!君らにしか直せないもんがあるって!」
「アドナキエル、スチュワード。ずっと放りっぱなしにしてたのか、珍しい。いいかな、サナ」
「え、ええ。構わないけど」
ドクターの支援もあり、サナと呼ばれたその女の子はあっさりと腕を解いた。
その腕を引っ張って廊下をひた走り、角まで来た時に手ごろな空き室を見つけて中へ放り込む。
すぐに換気のファンを回す壁のスイッチを押した。と、同時に2つの大きな体が飛び込んできた。