第19章 ロックオン
「…僕もてっきり…先輩たちがさくらに好意を抱いているのだと思っていました」
真実を知れば周りの委縮状態は緩やかに解けていくのを感じて、レイリィは視線を落として盤を見た。
そうして同じく白い馬に指示をする。―――瞬間、2人は嘲た。
「あぁその手は」
「悪手ですね」
「!」
「チェック」
白すぎる長い指がルークを掴むや否や、カチンと一歩進む。
それはどちらの意味の悪手か、と再び冷や汗が流れた。
チェスの一手か、それとも認識を自ら暴いたことへのものか。
盤を見れば前者かと思わせる完全なるミスリード。すぐに後者だと気付いて修正を図る。
「違うんでしょう?なら僕に譲ってください…!」
カチリ、と逃げるキングは彼の脳内では既に詰んでいた。
カチン、カチリ、カチン、カチリ。
数手の後、金色の目が細められてゆっくりその整った顔が上げられた。
「チェックメイト」
ついにキングの前に剣が差し出された。
それを見た翡翠の目が大袈裟に揺れて、バッと顔を上げた。
アドナキエルはゆっくり椅子から立ち上がり、その後ろを立ち見で見守っていたスチュワードがついて行く。
談話室に唯一設置された出入り口のドアノブに手をかけると、スチュワードが軽く振り返って困った笑顔を浮かべた。
「前からずっと想っていたと言っても偉くはないからね」
2人はそうして談話室を出て行った。
本当に読めない思考だと思った。何故それを言ったのかはレイリィにはついにわからなかった。
だが、次の日。
食堂で3人を見かけた時、レイリィは初めてこれは負け戦だと視線を落とした。