第15章 疲労困憊
「ちょ、アドナキエル。待て、待て!待って!待つんだ!犬でも言うこと聞くのに!話聞けコラ!止まって!止ま、ぐえええ!!?」
170センチ越えの体が突撃して来た。それも背骨を折りそうな力で、背中には腕が回った。
肩に置かれた頭が俯いている。それもそうだ。普段では見られないほど、
「はっ…はー…はぁ…」
珍しく笑みもなく、ただ荒い呼吸を繰り返している。余程辛かったのだろう。そう思うと引き剥がすのは適わない。そっと頭を撫でておいた。
「お疲れお疲れ」
「…」
段々と呼吸が落ち着いて行く。その音を聞きながら待っていると、不意に視界が少し暗くなった。見上げると、見知ったマスクがこちらを見下ろしていた。
「よお、お嬢ちゃん。…はー…あん時はやってくれたな?」
「一泡吹かせたよ。…えっと、ノイルホーンだよね」
「おう。お前は?」
「さくら!ノイルって呼んでもいい?」
「好きにしろよ。まったく…好敵手だぜ。まぁあの男も良く見捨てなかったよな」
「うん、あの時本当に死んだかと思ったよ。彼にはお礼しないとね。…とっ」
ヘラヘラと談笑していると、アドナキエルがどんどんと力を無くしていくため、そっと地面に下ろしてやる。
「大丈夫?アドナキエル。…はい、清涼飲料水だよー」
透明な水筒を手渡す。と、喋る気力もないのか、無言で受け取って水筒を仰ぎ始めた。自分が言えたことではないが、大分体力がないようだ。
それを見届けて、地面に置いてあるもう一本の水筒を掴んでノイルに差し出す。
「はいよ」
「何だよ、気が利くじゃねぇか」
「よくよく考えるとこの広大なロドスでよくもまぁ5人で追おうと思ったよなーって思ってさ。お疲れ様ー」
「おう、ありがとうよ。お前もお疲れ様」
戦友に労いを送り合う。何だかいい気分だ、と思っていると、ノイルの背後で金色の輪が揺れた。