第15章 疲労困憊
「…どうしてドクターが走ってるんだろうね?」
「ん、スチュワード」
「ここにいたんだ」
見上げると、今日一日を共にしたと言っても違いはない彼がいた。私ににこりと笑うと、壁に背中を預けて腕を組み始めた。
そんな彼の視線の先にはまだデッキをグルグルと回っているドクターがいる。あの人も青タグとして参加させられて、捕まったのだろう。
「今日はごめんね」
「スチュワードは助けてくれたんだよ?それに、良い想いさせてもらいましたご馳走様…!」
「はは、さくらが良いなら良いけどね。本当はパーソナルスペースを侵されているわけだから、気分は良くないだろうと思ってね」
女性に触れた、というジェントルマンの考えを持っているようだ。星を見せてくれた時も助けてくれた時もすぐに身を引いた所からして確実にそうなのだろう。
時折この世界の住民を見ていると、良く出来た人たちだなぁ、と思う時がある
…今ほど思ったことはないが。
「スチュワードはアドナキエルやメランサちゃんみたいに、私を救ってくれた大事な人だから。気分悪いわけないよ」
ポーン、とそう言葉のボールを投げ返すと、どうやらキャッチはされたようだが、それから返って来なかった。数秒待ってみたが、帰って来ないので左上に首を捻ると、スチュワードは去ったわけではなく、そこにいた。
「スチュワード?」
「…え?あぁ、ごめん…」
「大丈夫?疲れた?休んでいいんだよ?」
「そう、するよ。さくらも寒くなる前に中に入りなよ」
「はーい。今日はありがと!」
ひらりと手を振ってデッキから出ていくスチュワードを見送った。体調悪そうだったけど大丈夫かな、と思っていると、50周を走り終えた青タグが続々とデッキから消えていく。
「腹減ったぁあああ!!」
と、言う者が大半。青タグは食事にありつける。だが、赤タグは捕まえられなかったため、50周の他に食事抜きが科せられている。
今、走り終えた彼もそうだ。必死な顔を見ていると気分が良かった。
「…ん?」
不意に金色の目がこちらを見た気がした。…いや気のせいではない。確実にこっちに近付いている。それも大股で。